(令和5年度答申第2号) 答 申  1 審査会の結論  処分庁が,令和4年1月4日付け3調都建発第2790003号で「調布市東つつじケ丘○−○−○の建築計画概要書(S54 . 6. 25)」を非公開決定とした処分は,これを取消し,改めて公開・非公開の決定を行うべきである。 2 本件の経緯 年月日  経緯  令和3年12月20日  審査請求人は,調布市情報公開条例(平成11年調布市条例第19号。以下「本条例」という。)第6条第1項の規定により,市政情報公開請求書を処分庁に提出し,「調布市東つつじケ丘○−○−○の建築計画概要書(S54.6.25,第454号)(まちづくり事業課から2020.10.30付メールでNEXCO中日本に提供されたもの),メール本文,起案文書」の公開請求(以下「本件請求」という。)を行った。  処分庁は,同日付けで本件市政情報公開請求書(以下「本件請求書」という。)を受理した。  令和4年 1月 4日  処分庁は,本件請求について,本条例第11条第2項の規定により市政情報非公開決定処分(以下「本件処分」という。)を行った。    同年 4月 1日  審査請求人は,本件処分を不服とし,審査請求書(以下「本件審査請求書」という。)を審査庁に提出し,行政不服審査法(平成26年法律第 68号。以下「法」という。)第2条の規定により,審査請求(以下「本件審査請求」という。)を行った。  審査庁は,同日付けで本件審査請求書を受理した。   同年 4月28日  処分庁は,法第29条の規定により,弁明書(以下「本件弁明書」という。)及び証拠物件等を審査庁に提出した。  審査庁は,同日付けで本件弁明書及び証拠物件等を受理した。   同年 6月16日  審査請求人より,反論書の提出期限延長を求める申出があった。   同年 7月 4日  審査請求人は,法第30条の規定により,反論書(以下「本件反論書」という。)を審査庁に提出した。  審査庁は,同日付けで本件反論書を受理した。   同年 7月20日  処分庁から審査庁に対し,再弁明書等の提出をしない旨の通知があった。   同年10月 7日  審査請求人からの申出により,法第31条の規定に基づく口頭意見陳述(以下「本件口頭意見陳述」という。)を実施した。   同年10月24日  審査請求人から「不服審査請求令和4年度第2号事件についての意見書」と題する補充的書面が提出された。  審査庁は,同日付けで当該書面を受理した。   同年11月14日  審査庁は,期限内に処分庁から補充的書面の提出がなかったことから審理を終結し,本条例第19条の2第1項の規定により,調布市情報公開審査会(以下「当審査会」という。)に諮問(以下「本件諮問」という。)を行い,諮問書とともに本件審査請求書,本件弁明書及び本件反論書の写し(以下「本件諮問書等」という。)を当審査会に提出した。  当審査会は,同日付けで本件諮問書等を受理した。 3 本件審査請求の内容 (1) 本件審査請求の趣旨  調布市長が審査請求人に対し行った本件処分の取消しを求める。 (2) 本件審査請求の理由    審査請求人の本件審査請求書,本件反論書,本件口頭意見陳述,補充的書面及び本条例第24条に基づく口頭での意見陳述における主張はおおむね以下のとおりである。 ア 「調布市東つつじケ丘○−○−○の建築計画概要書(S54 . 6. 25)」(以下「本件請求文書」という。)は,保存期間を満了していても,廃棄せず保管していて,必要があれば,外部からの要請に応じて提供しているのであるから,職員が組織的に用いているものである。保存状態から組織共用文書であるだけでなく,2020年10月に外部提供されたことで明らかに組織共用文書である。 イ 市が保有する文書やその所在を多くが知っているかどうかに関係しない。また,施錠された管理の有無にも関係しない。そもそも整理整頓の原則からは,使用頻度の高いものは手元に置き,低いものは遠くに置く,重要なものや管理の必要なものは施錠するだけのことで,使いにくさや重要さは組織共用の判断基準ではない。また,「閲覧対象としておら」ないものは組織共用文書から外れる条件にならないことは明らかである。 ウ 平成5年度以前の建物の概要書が閲覧に供されないことは,情報空白家屋をつくることになる。必要な情報が提供されないので,建築基準法の趣旨からして好ましくないことを本件が物語っている。 エ 建築指導課は,ただ庁内の街づくり事業課に情報提供しただけかもしれないが,街づくり事業課が行政機関としてあるまじき,でたらめの公文書管理,でたらめの手続で情報の外部提供をしていることを事前に把握していたら,どのようなかたちで,情報を提供したかと問いたい。 オ 非常時対応という説明をしているが,本来取るべき手続を省いて記録も決裁もなしに外部提供していることは,違法・不当である。情報を外部提供する場合は,外部提供先の情報管理体制もわからない以上,必ずしかるべき意思決定を経るべきである。   行政は一定の合理的な統一的なルールに従って行わなければならない。しかし,外環事業者という外部に非常時対応という法的根拠のない理由により,脱法的恣意的情報提供をしていて,その手続記録もない。便宜供与である。一方で,情報公開については,不合理な説明で公開を拒む。本件処分は,公正な処分と言えない。本件処分の取消しを求める。 カ 外環事業者に情報提供した利益と不利益を比較衡量して判断されたようだが,同様に情報公開することの利益と不利益を比較衡量した行政が必要である。外部提供については非常時対応という法的根拠のない理由により,脱法的提供をしていて,その手続も記録もない。一方で,情報公開については,不合理な説明で公開を拒む。とても公正な処分と言えない。 キ 建築計画概要書全てが個人情報に該当するものではなく,建築主,工事事業者といった部分に限り個人情報である。 4 処分庁による本件弁明書等の趣旨   本件弁明書等による処分庁の主張を要約すると,おおむね以下のとおりである。 (1) 弁明の趣旨  「本件審査請求を棄却する。」との裁決を求める。 (2) 本件審査請求に対する弁明  建築計画概要書は,建築による周辺との紛争防止や違反建築の未然防止を目的に,請求があった場合は閲覧に供するものと建築基準法第93条の2に規定されている。建築主,設計者,施工者,敷地状況,構造規模等の情報が閲覧できるが,確認や許可等の処分の有無については知り得ない。  平成11年の建築基準法改正時に,建築計画概要書を閲覧に供する期間の終期について,当該建築物が滅失又は除却されるまでと定められた。しかし,改正法施行前の建築計画概要書の取扱いについては,各自治体に委ねられることとなったため,市では,平成11年度時点で文書保存期間内であった平成6年度以降の建築計画概要書について,改正後の規定を適用し,当該建築物が滅失又は除却されるまで閲覧に供するものとした。本件請求文書については,昭和54年に作成されたもので閲覧対象としておらず,今日に至るまで単に常時施錠された書庫に保管され,その存在自体も一部の職員が知るに留まり,組織的に用いているものでもない。  したがって,本件請求文書は,条例第2条第2号で定義する市政情報に該当しないとするのが相当である。 5 審査会の判断   当審査会は,審査請求人の本件審査請求書,本件反論書及び本件口頭意見陳述等における主張並びに処分庁の本件弁明書及び理由説明における主張を具体的に検討した結果,以下のように判断する。 (1) 本件請求の経緯  ア 令和2年10月に市内で発生した陥没事故の直後に,早期の原因究明のため事業者から市に対し,陥没地域付近の特定の建築計画概要書の提供依頼があった。市は,市民の生命・財産を守るため緊急性が高い事案であることから,事業者に当該建築計画概要書の写しをメールに添付し送付したとのことである。審査請求人は,匿名の通報により,上記の状況を知り,本件請求時点で,約1年前当時に街づくり事業課から事業者に送付したメール,それに添付された建築計画概要書及び関係起案文書に関する情報公開請求を行った。 イ 処分庁である建築指導課は,令和2年10月30日付メールで事業者に提供された,調布市東つつじケ丘○−○−○(S54,6,25.第454号)の建築計画概要書を保管し,令和2年10月頃に街づくり事業課へ提供したとのことである。 (2) 建築計画概要書について   ア 建築計画概要書は,周辺との紛争防止や違反建築を未然に防ぐことを目的とした書類で,建築主,設計者,施工者,敷地状況のほか,配置図といった情報が記載されており,建築基準法第93条の2に基づき,請求があった場合は閲覧に供するものである。   イ 市は,平成7年度から建築主事をおき,建築確認や許認可などの処分を行う特定行政庁となったため,これまで業務を行ってきた東京都から事務の移管を受け,平成6年度以前の建築計画概要書等の書類を引き継いだ。   ウ 建築計画概要書の保存期間は,東京都に倣い,平成7年度から5年間保存していたとのことであるが,平成11年に建築基準法の改正があり,「建築物が滅失又は除却されるまで」保存することになった。このことにより,平成11年度から閲覧に供している建築計画概要書は,平成11年度の時点で5年を遡った平成6年度以降の建築計画概要書である。 (3) 本条例第2条第2号の該当性について ア 審査請求人は,市が本件請求文書を外部提供しているため,組織共用があり,情報公開請求の対象であると主張している。  よって,本件請求文書が市政情報公開請求の対象となる条例第2条第2号に規定する市政情報に該当するか検討する。 イ 条例第2条第2号において,市政情報とは,「実施機関の職員が職務上作成し,又は取得した文書,図画,写真,フィルム及び電磁的記録(電子的方式,磁気的方式その他人の知覚によっては認識できない方式で作られた記録をいう。以下同じ。)に記録されている情報であって,当該実施機関の職員が組織的に用いるものとして,当該実施機関が保有しているものをいう。」と規定している。 ウ 本件請求文書は,東京都から事務移管により,市が引き継いだ昭和54年度の建築計画概要書であり,市が職務上取得した文書である。 エ 建築計画概要書の保管について,処分庁に確認したところ,本件請求文書を含む閲覧に供していない建築計画概要書は,閲覧に供している平成6年度以降の建築計画概要書とは分けて,東京都から引き継いだ状態から変更せず,年度別のフォルダーに分けて収納し,建築指導課長が管理する鍵で常時施錠された書庫で保管をしているとのことであった。 オ その利用目的は,市が災害発生時等の極めて緊急性が高い有事の際の資料として活用を想定し,保管をしていた。今回は,道路陥没といった重大被害が発生したため活用したとのことであった。 カ 「情報公開事務の手引(令和2年度版)」の本条例第2条第2号の解釈として,「当該実施機関の職員が組織的に用いるものとして,当該実施機関が保有しているもの」とは,当該市政情報がその作成又は取得に関与した職員個人段階のものではなく,組織としての共用文書の実質を備えた状態,すなわち,当該実施機関の組織において業務上必要なものとして利用,保管又は保存している状態のもの(以下「組織共用文書」という。)を意味する,とある。 キ 本件請求文書は,東京都から引き継いだ当初から保管状況に変わりはないとはいえ,文書を検索できるよう体系的に保管し,明確な利用目的を持って,処分庁が保管をしている文書であり,組織において業務上必要なものとして利用,保管していると認められる。  以上のことから,一部の職員しか知らない文書で,職員が自由に閲覧又は利用することができない状態であったとしても,組織において業務上必要な文書として利用,保存しているものではないとはいえず,今後利用する目的があれば,実際に利用があったという事実の必要はなく,組織共用文書である。     したがって,本件請求文書は,条例第2条第2号の市政情報に該当する。 (4) 本件請求文書の不存在の妥当性について   ア 審査請求人は,保存期間を満了した文書も,廃棄せず保管しており,必要があれば,外部からの要請に応じて提供しているのであるから,職員が組織的に用いているものであると主張している。     よって,本件請求文書が保存期間を経過した文書であったとしても,市政情報公開請求の対象文書となるか検討する。   イ 処分庁の説明によると,市が東京都から引き継いだ建築計画概要書は,建物が除却等されたか等の有無に関わらず,保存期間を経過した文書であったとしても,移管を受けてから廃棄せず保管をしている。また,本件請求文書は,当該文書を東京都から引き継いだ時点において,すでに保存期間を経過した文書であり,これまで閲覧に供したことはないとのことであった。 ウ 本件請求文書は,本来,処分庁が廃棄すべきものを廃棄せず保存し,保存期間が経過しても,当該文書を保有していることから,単に保存期間を経過したことを理由に,当該文書を保有していないとはいえない。  以上のことから,本件請求文書は,保存期間が経過した文書であるが,条例第2条第2号にある「実施機関が保有している」状態にあり,市政情報に該当することからも,本件請求の対象となる。 (5) 本条例第7条第2号の該当性について ア 審査請求人は,平成5年度以前の建築計画概要書が閲覧に供されないことは,必要な情報が提供されないため,建築基準法の趣旨から好ましくない。また,建築計画概要書の全てが個人情報に該当するものではないとの主張をしている。  したがって,建築計画概要書が本条例第7条第2号に規定する「個人に関する情報」に該当するか,当審査会は以下のとおり整理する。 イ 本条例に基づく市政情報公開請求があった場合,本条例第7条では市政情報の公開義務について規定しているが,同条第2号において「個人に関する情報(事業を営む個人の当該情報を除く。)であって,特定の個人が識別され,又は他の情報と照合することにより識別することができることとなるもの」は公開義務から除外する旨が規定されている。   ウ 建築計画概要書は,建築主,設計者,施工者,敷地状況のほか,配置図といった情報が記載されており,その内容から個人が特定されるおそれがあることから,これらの情報は本条例第7条第2号に規定する「個人に関する情報」に該当する。   エ 次に,「個人に関する情報」に該当する場合であっても,同号ただし書ア,イ及びウにあたる場合,個人の利益保護の観点から非公開とする必要のないものや公益上公にする必要性の認められるものは公開するものとしている。ただし書アにおいては,「法令等の規定により又は慣行として公にされ,又は公にすることが予定されている情報」について非公開情報から除くと規定している。   オ 建築計画概要書は,建築基準法93条の2の規定に基づき,閲覧することができる文書で,市においては,調布市建築基準法施行細則第39条で「建築計画概要書を閲覧しようとする者は,市長に対して当該建築計画概要書の写しの交付を請求することができる。」としている。また,処分庁に確認したところ,閲覧の窓口において,建築計画概要書の内容をマスキングすることなく,すべて公開しているとのことであった。  以上のことから,本条例第7条第2号ただし書アに該当すると考えられる。   カ しかしながら,前述のとおり建築計画概要書の内容は,「個人に関する情報」である。本条例第3条第2項では「実施機関は,同条例の解釈及び運用に当たっては,個人の尊厳を守るため,個人に関する情報がみだりに公開されることのないよう最大限の配慮をしなければならない。」と規定しており,公開を原則とする情報公開制度の下においても,個人に関する情報は最大限に保護されるべきであり,正当な理由なく公にされてはならないことを明示している。   キ 建築計画概要書を閲覧させる目的は,建築確認等の申請内容を管理,把握することはもとより,周辺との紛争防止や違反建築を未然に防ぐことにある。そのことから,建築計画概要書の内容をマスキングせずに,個人に関する情報を閲覧させることは,目的達成のために,必要なことであって,正当な理由がある。  よって,建築計画概要書は,本件請求文書のように保存期間を経過した文書で,本来,処分庁が廃棄すれば,閲覧に供されることのない文書であったとしても,閲覧の目的やその状況を鑑みると,閲覧に供すべき文書であって,市政情報公開請求の対象となった場合にも,本条例第7条第2号ただし書アに該当し,公開すべきである。 (6) その他 その他,審査請求人は縷々主張しているが,当審査会の判断に影響を及ぼすものではない。 (7) 結論    よって,「1 審査会の結論」のとおり判断する。 6 当審査会の処理経過    当審査会は,本件諮問について以下のように審査を行った。 年月日 処理経過 令和4年11月14日 審査庁から提出された本件諮問書等を受理 令和5年 2月 6日 情報公開審査会(令和4年度第6回) 本条例第24条の規定による審査請求人の口頭での意見陳述, 処分庁の事情聴取   同年 4月20日 情報公開審査会(令和5年度第1回) 審査   同年 7月12日 情報公開審査会(令和5年度第2回) 審査   同年 9月28日 情報公開審査会(令和5年度第3回) 審査   同年11月20日 情報公開審査会(令和5年度第4回) 審査 7 調布市情報公開審査会委員 職名 氏名 備考 会長 草川 健 弁護士 副会長 井上 寛 弁護士 委員 稲益 和子 弁護士 委員 佐藤 惠子 市民 5