5-2 学齢期の福祉教育を考えるワーキング 報告書 1 目的   教育現場では以前より授業の中で福祉教育が実施されている。その方法はゲスト講師による講話や疑似体験など多種多様である。一方、調布市では今年度から「障害当事者講師養成研修」を開始し、障害当事者が自らの経験をもとに講師として、「地域で活躍する」ことが期待されている。そこで、こうした調布市の取組を含め地域の中で福祉教育を展開するために教育と福祉の連携について協議を行うこととなった。 2 ワーキングにおいて取り組む主な内容について   調布市内の教育機関に対して、福祉教育に関するアンケート調査を実施・分析を行う。その分析をもとに、教育機関が抱える課題や福祉教育に関する要望を把握し、福祉教育の実施方法や教育内容について検討する。 3 ワーキンググループメンバー(敬称略)  座長 谷内 孝行 (桜美林大学 健康福祉学群 准教授)     髙江洲 幸男(当事者)     佐々木 翼 (当事者)     樋川 宣登志(調布市立第一小学校 校長)     坂口 昇平 (調布市教育委員会指導室 副主幹)     毛利 勝  (特定非営利活動法人調布心身障害児・者親の会)     田村 敦史 (社会福祉法人調布市社会福祉協議会 市民活動支援センター)     前田 雄太 (社会福祉法人調布市社会福祉協議会ドルチェ)     吉野 強  (社会福祉法人調布市社会福祉事業団 調布市障害者地域生活・就労支援センターちょうふだぞう) 4 今年度の検討経過  第1回ワーキング (開 催 日)令和5年7月11日(火) 午後6時から8時 (開催場所)総合福祉センター201・202・203 (出 席 者)委員6名 事務局7名 (内  容)  ①今年度の学齢期の福祉教育を考えるワーキングの目的や取り組む内容について理解を深めてもらう。  ②福祉教育に関するアンケートの方向性及び実施方法等について,意見交換を行う。 (主な意見) ・教育現場では障害当事者を主体的な対象と捉え,必要な支援は提供するが「育てる」ことが必要という考えから,「指導」をしなければならない。この点が福祉とは異なる観点だと思う。教育と福祉がお互いの違いを理解した上で「対話」を重ねていくことが今後のよりよい連携のために重要となる。 ・アンケートの対象は教員を想定する。実施時期は年度末以外がよい。 ・コロナ禍により,直近3年間は従来の福祉教育が実施出来ていないため,簡易的な内容に置き換えられているといった可能性がある。また担当教員の異動もあるのでアンケートはどの程度具体的な回答が得られるか心配である。 ・福祉教育というと高齢者・外国人・LGBTQs等,定義が広いため「障害福祉教育について」などテーマを絞って聞きたいことを明確にした方が回答を得やすいと思う。 ・障害の有無に関わらず,一緒に学ぶ機会が大切である。「障害理解教育」が福祉教育の1つであり,障害を知らないのではなく,理解してもらうことが福祉教育に繋がると思う。 ・どのようなことを生徒に伝えていきたいか,今後どのようなことを知ってもらいたいか等,学校側の意見を書く項目があると学校や教員からのニーズが確認できると思う。 ・「特別支援学級がある学校」と「特別支援学級がない学校」のアンケート結果を比較することを検討してみてもよい。特別支援学級がある学校では,運動会や行事を一緒に行うなど交流の機会が設けられている。交流の方法についても各学校により考え方は様々だと思う。 ・福祉教育を推進するために,推進できない原因を解決する方法について聞いてみてもよいと思う。 ・小学校では,障害の疑似体験が実施されているケースが多い。その後,生徒に感想を聞くと「大変さ」や「出来ないこと」についての印象が強く,マイナスのイメージを持ちやすい。障害当事者が,障害の社会モデルを伝えることに意義があると考える。 ・現在,多様性が大事とされる社会だが,どのような方法で共生社会を目指していくかを継続して考えることが大切である。障害当事者から発信する機会は必要である。今回のアンケートの回答を参考にして,障害当事者が発信する時に様々な観点から伝えていけるように繋げていきたい。 (まとめ)   今回は福祉教育についての学校向けアンケートの実施方法・対象・アンケート内容について意見交換を行い,教育現場,障害当事者,関係機関など様々な視点から現状を探ることが出来た。また,これまで教育分野と福祉分野では「対話」の機会が少ない中で福祉教育が実施されてきており,双方の共通の課題であることを認識した。   そしてアンケート実施と並行して,調布市立第一小学校の小学4年生を対象とした福祉教育プログラムの実施も検討している。次回のワーキングでは,小学校で実施するプログラム内容についても,意見交換を行うことになった。    第2回ワーキング (開 催 日)令和5年9月13日(水) 午後6時から8時 (開催場所)社会福祉法人新樹会 空と大地と (出 席 者)委員7名 事務局5名 (内  容) ①福祉教育アンケート案について,実施方法や内容について意見交換を行い,今後の流れを確認する。 ②第一小学校で実施する福祉教育プログラムについて,子どもたちが考えるきっかけになるプログラム内容を検討し,様々な視点から意見交換を行う。 (主な意見) ・令和元年度,市民活動支援センターで実施した出前講座の数は小学校20校中15校,中学校は8校中2校の依頼があった。高校では2校の依頼があった。以前の指導要領では,国語の教科書の中でも多様なコミュニケーションとして手話や点字等,カリキュラムに載っていたことで,障害当事者にも協力してもらうことがあった。 ・事前に視覚障害のことについて学んで,その後調べ学習をする機会を設けることがある。低学年の場合は,手紙で自分の気持ちを書いてみることを試みたこともあった。 ・直近約5年間はオリンピックパラリンピックの影響で東京都の事業として,福祉教育を実施している可能性が高い。例えば,ボッチャや車いすバスケットボール等体験型が多かった。 ・福祉教育を実施した結果,児童が「どのように考えたか」,「どのように感じたか」,「どのように理解したか」を知りたい。しかし,アンケート結果のみでそれらを明らかにすることは難しい。アンケート回収後,必要に応じてヒアリング調査を行うことで具体的な状況を把握できる可能性がある。 ・SDGsには福祉的な要素が含まれている。総合的な学習の時間でSDGSを取り上げるだけでなく,教科学習においても算数で車いすのホイルの直径を求める,教科書の挿絵にスカート姿ではない女性や肌や髪の色,国籍が多様な人が出てくる等,多様性の理解を意識した内容にシフトしつつある。 ・今年度第一小学校で福祉教育の授業を行うことで,「障害とは何か」考えてもらうきっかけに繋げていきたい。当日は障害当事者から発信することで様々な人たちがいることを知ってもらいたい。障害当事者の話を聴いて,「何に困っているのか」「自分達には何が出来るのか」を考えることが大切である。 ・小学校と特別支援学校との交流もある。お互いの学校を行き来しあって,一緒に遊んだり,何かに取り組むことでお互いを知ることが出来る交流となっている。 ・実際小学校に当事者講師として携わった時は自己紹介と車いすを使用している人の買い物場面の写真を見せた。その後に「どこに困るのか」グループワークで意見交換を行い,発表してもらった。障害の捉え方について障害の「社会モデル」の話にも触れている。 ・福祉教育プログラムを受ける前後で「障害とはなにか」について,児童の考え方の変化 を聞いてみたい。 ・障害の有無に関わらず,生活のしづらさや困りごとは誰しも持っている。福祉教育プログラムで障害当事者の話を聴いて考えることで「私だったらどうするか」「自分たちができないことを頼っていいんだ」「お互い助け合う社会にするためにはどうすればいいのか」等,自分ごととしてイメージできるようになるとよい。 (まとめ)  今回は福祉教育に関するアンケートの内容について意見交換を行なった。コロナ禍での福祉教育の実施状況が各学校で異なる可能性があるが,年度を問わない形でこれまでに実施した内容を確認することとした。アンケート結果のみでは児童や生徒の理解がどれほど深まったかを明らかにするには限界があるため,必要に応じて学校へのヒアリングも視野に入れていくこととする。  また第一小学校で福祉教育プログラムを実施する際,「障害とは何か考えるきっかけにする」「自分ごとに置き換えて考えてみる」等,具体的な目的のもとに授業の内容を検討する。  第3回ワーキング (開 催 日)令和6年1月18日(木)18時~20時 (開催場所)総合福祉センター視聴覚室 (出 席 者)委員9名 事務局6名 (内  容)  ①調布市内小・中学校で実施した福祉教育(障害理解教育)に関するアンケート結果をもとに意見交換を行う。 ②第一小学校で実施した障害理解教育の授業内容を共有し,課題や今後の取り組みについて,意見交換を行う。 (主な意見) ①福祉教育(障害理解教育)に関するアンケート結果をもとに意見交換 ・福祉教育(障害理解教育)の「目的」に関する項目では,「共生社会」が多くワードとして挙げられていた。 ・「課題」に関する項目であげられていた「準備時間の確保」について,他の業務を進めていく上で時間が取れない状況にあると推測する。「予算確保」「講師への謝礼金」の項目については,東京オリンピック・パラリンピックにより,これまでは東京都から予算が多く割り当てられていたが,現在は予算を組むことが難しい状況にあると思われる。 ・福祉教育は歴代の教員から引き継がれていることもあったが,コロナ禍で実施が出来なかったため,どこに相談をしたらいいか分からない教員もいると思う。相談先や実施している内容の一覧や実際に教員向けに授業をしてみてもらうことで,福祉教育(障害理解教育)の選択肢が広がるのではないか。 ・「実施時間」に関する項目について,時間数が学校によっては大きな差が出てきている。時間数が大きい学校は,事前準備の時間や振り返りの時間を含めている可能性がある。少ない学校は当日の実施時間のみ記載している可能性があると思う。具体的に聞いてみたい。 ・実施内容の中で「特別支援学級との交流」を挙げている学校が複数見られる。そこでどのような交流を行なって来たか,詳細を聞いてみたい。 ・今まで調布市の福祉教育(障害理解教育)の内容は,体験型の歴史が長い。障害を社会モデルで捉える視点,権利の平等性等をより具体的に伝えるためには新たな方法も検討していきたい。 ②調布第一小学校の4年生を対象に実施した障害理解教育の授業について ・座学を中心にフォトランゲージを使用して,自分達で考えて発見してもらえる内容を行った。写真は小学4年生が身近に感じられる題材探しが難しかった。実際にやってみて,児童の集中力やこちらの意図を伝えるためには,聞いて考えるのみではなく身体を動かしたり,体験できるものを合わせると児童の興味に繋がると思った。 ・準備段階で何度も相談しながら,作り上げることが大切だと思った。 ・当日参加してみて,運営側の時間設定に課題があったと感じた。最終的に時間が足りなくなっていたため,時間配分については検討する必要がある。 ・障害当事者の話す内容は魅力的である。教員が障害について伝えることは限界があるため,当事者から生の声で伝えることは大切だと改めて感じた。教員向けの研修でも障害当事者の話を聞く機会が増えることを期待したい。 ・児童にとって分かりやすい写真や動画,ICTなどの教材を効果的に活用する必要があると思った。児童への伝え方,見せ方によってイメージのしやすさに繋がる。そのためには,教育機関から伝え方や見せ方の方法についてアドバイスをもらうことで,伝えやすさが変わってくると思う。 ・教職課程を取得するためには,特別支援に関する科目を学んでいる。最近では障害理解の知識が増えてきていると思う。 ・児童にも伝わるような障害の社会モデルの説明は工夫が必要である。 ・「助けてあげたい」「声をかけてみようと思った」など感想文に書かれていた。今回2人の当事者の方の話を聞いてみて,障害理解について考えるきっかけに少しでも繋がってくれると嬉しい。 (まとめ)  今回のワーキングでは,福祉教育(障害理解教育)に関するアンケート結果をもとに現状と課題の確認,第一小学校で障害理解教育の授業についての意見交換を行った。どちらも実際に教育現場の中で福祉教育(障害理解教育)について,どの程度のニーズがあるのか,今回のワーキングの中では具体化することが出来なかった。そのため,今回の繋がりをきっかけにして教育や福祉の「対話」が広がっていくことを期待する。  第4回ワーキング (開 催 日)  令和6年3月4日(月) 午後6時から8時 (開催場所)  調布市総合福祉センター202・203号室 (出 席 者)  委員9名 事務局6名  (内  容) ➀次年度の取り組みについて意見交換を行う。 ②今年度のワーキングの振り返りを行う。 (主な意見) ①次年度の取り組みについて ・学校側から福祉教育(障害理解教育)の授業依頼が来た場合,事前に依頼者側の目的や伝えたい内容,実施側の運営方法等のすり合わせを行うとお互いに疎通の取れたより良いものに近づけると思う。 ・福祉人材育成センターで実施している障害当事者講師養成研修と連動出来る仕組み作りが出来るといいと思う。 ・児童が「障害の社会モデル」をどのように捉えているのか,興味がある。30人いて全員がすべて興味を持ってもらうことは,他の科目でも難しい。1人でも知りたいと思っている児童がいれば,そこから理解が浸透していく可能性もある。知りたいと思ってもらうことが大切である。 ・教員にどの程度,「障害の社会モデル」の考え方が浸透しているかが分からないことが今の課題でもあり,ワーキングをきっかけにして伝えて行けるといいと思う。 ・「障害理解」や「障害の社会モデル」など,子どもにとっては身近ではないし,関心が向くことは難しいと思う。子どもたちに100%の「障害理解」を求めることも難しい。しかし,その中でも関心が向かない今だからこそやる意味があり,将来的に色々な人が生活していることを知る機会になると思う。 ・学年によって理解の仕方が異なる。「障害の社会モデル」の視点を取り入れた授業を作るためには,各学年に合わせた伝える方について,福祉のみの知識ではなく,教育の視点も含めて双方の視点からすり合わせをしていきながら,授業内容を検討しブラッシュアップしていく必要がある。 ①今年度のワーキングの振り返り ・障害当事者にとっても自身の「障害とはなにか」を理解するまでには時間がかかる。その中で,児童に理解してもらうことはさらに難しいと思う。当事者が関わる上で,「障害とはなにか」を知る機会に繋がるといい。 ・現状が分からない中ではあったが、アンケートを行い,実態把握をするきっかけになった。 ・今まで教育機関の方々から話を聞く機会がなかった。今回ワーキングを通して,学校の現状を知ることが出来て,勉強になった。実際に子どもたちが受けた経験からどのように感じるかが大切になってくる。様々な経験の中から子どもが,どう捉え,何を感じるのか引き出していけるかが重要である。 ・障害当事者の方々の話を聞くことは大変勉強になり,教育と福祉との意見交換が出来たことは,大きな成果だと感じている。今後もこの話し合いの場を継続して欲しい。 (まとめ)  今年度のワーキングでは,教育と福祉が互いの状況を知る貴重な機会に繋がった。実際に教育と福祉が違う角度の視点から見ている部分のすり合わせや連携が必要である。  また「障害理解」や「障害の社会モデル」は子どもたちにとって身近な内容ではないため,興味や理解を深めてもらうことは,現時点で限界がある。しかし「障害理解」や「障害の社会モデル」を伝えていくことは障害の有無に関わらず大切であるため,次年度以降も教育と福祉の連携が継続的に行える方法について,このワーキングをきっかけにして意見交換を継続して検討していきたい。 ■これまでの到達点  調布市では福祉教育(障害理解教育)は講話や体験等の方法で実施されていたが,取り組み状況や課題,今後の取り組みに向けた希望など,具体的に把握する機会がなかった。そのため,調布市内の小・中学校向けに福祉教育(障害理解教育)に関するアンケートを実施することで,取り組み状況や課題を把握することが出来た。  また第一小学校の4年生を対象に障害理解教育の授業を障害当事者2名に協力のもと,「障害の社会モデル」の視点を含めた授業内容で実施した。授業終了後に児童から授業を受けてみた感想と担任の先生から運営面のアンケートに協力していただいたところ,児童からは「人を助けたいと思った」「自分から声をかけてみたいと思った」「すべての人が安心して暮らせるようにいろいろな仕組み作りをしていきたいと思った」などの意見が聞かれた。今回の授業を機に児童が普段暮らしている中で,さまざまな人と共生しながら,暮らしていることを気づき,誰にとっても暮らしやすい社会について考えるきっかけになることを期待したい。  最後に教育関係の方々が関わっていただいたことで専門的な立場から意見交換が出来たことは大きな成果である。今後も継続的に意見を取り交わし協働していくことの意義について改めて,確認した。 ■今後の展望と課題  今年度は福祉教育(障害理解教育)に関するアンケートを実施したことで,学校現場の状況が把握出来てきた。今後はアンケート結果をもとにさらなる分析や小・中学校へのヒアリング調査など,その内容をより具体的にしていきたい。  また、小学校で実施した障害理解教育の授業では,事前準備や授業内容,時間管理などに課題が残った。実際に「障害の社会モデル」の考え方については,見せ方や伝え方の工夫が必要であることが分かった。そこで,教育と福祉が知識を出し合いながら実施目的と期待される効果,児童や教員に伝えるべき内容,運営方法などについて,検討していきたい。