5-3 医療と福祉の相互理解についてのワーキング 報告書 1 目的   昨年度のワーキングにおいて、障害のある方の医療アクセスの現状と課題を明らかにするため、当事者及び家族に対してアンケートを実施した。また、医療側の現状と課題を把握するため、調布市医師会が医療機関向けにアンケートを実施した。   今年度のワーキングでは、二つのアンケート集計結果を踏まえ、病院での受診や在宅診療並びに健診時における双方の理解をより一層深めることで、障害のある方が安心して受診できるような環境づくりを目指していく。 2 ワーキングにおいて取り組む主な内容について   当事者・家族並びに医療従事者向けアンケート結果を踏まえて、当事者の受診について受け入れ促進要件や阻害要件を明らかにしていき、解決方法等について検討していく。 3 ワーキンググループメンバー(敬称略)  座長 山本 雅章(社会福祉法人調布市社会福祉事業団 業務執行理事)     西田 伸一(公益社団法人調布市医師会 会長)     伊藤 文子(一般社団法人子どもプライマリケアサポートかしの木 代表理事)     進藤 美左(特定非営利活動法人調布心身障害児・者親の会 会長)     富澤 敏幸(調布市身体障害者福祉協会 副会長)     愛沢 法子(調布市視覚障害者福祉協会 会長)     井村 茂樹(調布市聴覚障害者協会 会長)     江頭 由香(調布精神障害者家族会かささぎ会 会長)     秋元 妙美(CILちょうふ 代表)     栗城 耕平(地域生活支援センター希望ヶ丘 施設長)     円舘 玲子(調布市障害者地域生活・就労支援センターちょうふだぞう 施設長) 4 今年度の検討経過  第1回ワーキング (開 催 日)令和5年7月5日(水) 午後6時から8時 (開催場所)調布市文化会館たづくり303・304会議室 (出 席 者)委員11名,事務局8名 (内  容)  ①今年度の方針について  ②アンケートの集計結果  ③アンケートの集計結果についての意見交換 (主な意見) ・総じて予測通りの結果と言える。身体障害の方の対応には慣れているが,特に知的障害と発達障害の方には慣れていない医療機関が多い。 ・医療機関はネガティブな意見が多く,当事者は前向きな意見が多かった。 ・精神障害の方は精神科がかかりつけ医になる方が多い。そのため,精神科にかかっている方の他科へのかかりにくさが見えてこなくて残念。 ・当事者がこんなに満足しているとは考えにくい。精神状態が悪い方,知的障害でニーズの高い方が返答できていない可能性が高い。 ・課題を掘り下げて分析し,今後の方向性を見出せたら良いと思う。 ・医療機関側は不足しているものとして専門医療と答えている方が多かった。障害のある人は専門医療に行ってほしいと言われているように感じた。 ・受けてくれる医療機関があるだけで満足している方が多いと思われる ・訪問診療であれば受けられる方も多い。訪問歯科は非常に活用されている。 ・訪問診療は歩いて医療機関に行けない方が主に利用しているので,往診とは異なる。違いを理解して検討する必要がある。 ・日本はトータルで診られる医療機関が少ない。総合的かつ継続的に地域でかかれる医療機関を地域で見つけていくことが課題。 ・小児のキャリーオーバー組が多い。医ケア児が成人になっても小児科に頼らざるを得ないことも大きな課題である。  第2回ワーキング (開 催 日)令和5年9月27日(水) 午後6時から8時 (開催場所)教育会館301会議室 (出 席 者)委員9名 事務局6名 (内  容) ①アンケートの集計結果報告 ②パンフレットの検討  ③勉強会の検討 (主な意見) ◎障害のある人の医療アクセスに関するアンケートについて ・精神障害のある方は2級の方が多いが,3級の方が多く回答している。3級の方は就労している場合も多いので,困っている人の実態をつかめていないと感じた。 ・今回のアンケートで精神科をかかりつけ医であると回答している人が10.8%とあった。アンケートでは総合的な医療担当を想定しているが,精神障害の方の場合には精神科をかかりつけ医と捉えてしまうため,他の障害の方と結果が異なると思われた。 ・グラフの形としては,%ではなく実数での表記がわかりやすい。等級による優位差がどれだけでるか確認したい。 ・基本的に医療側で断っていないように見て取れるが,断られたと思う人がいるので,その矛盾をどう読み解いていくのか。逆にその点をどう乗り越えていけば良いのかが課題 ・自由記述の部分は,精神障害のある人やご家族が書いた回答がどれだけあるのか。満足しているという回答では,具体的な内容を汲み上げると良いと思う。一方で回答数が少なくても,困っているという回答を大事に捉えていく視点も必要 ◎障害理解を促進するパンフレット作成について  (参考資料:平成29年度障害者総合福祉推進事業「医療機関における障害者への合理的配慮 事例集」) ・医療関係者には障害福祉という考え方がそれほど普及していない。講演会や学習機会を増やしていくことは意味があるが,要求が増えると逆に溝ができる可能性があるので,進め方を考える必要がある。 ・かかりつけ医のことも大切だが,予防や健康診断に対するアクセスに関することも検討した方が良い。 ・合理的配慮についての義務化は伝えた方が良いと思われるが,強制的な伝え方は控えたい。こうしたら助かった,上手くいったという好事例を伝えていくと良い関係になるのでは。 ・コロナ禍で対応してもらった例などを挙げてもらうと良い。軽症の人は受診できたとか,重症な人は断られたという例も聞いているので,具体的な事例を集めることは有意義であると思う。 ・待合室に入れなかったり待てなかったりする場合,行動障害がある障害のある人などは受診を断られ,家族が診察を諦めるケースもある。困っている点を見える化して人数調査ができたら良い。 ・マジックをすることで関心をひいて診察できたケースもある。マジックをすることは難しいかもしれないが,車の中にいるまま診察してくれたことや白衣を脱ぐようなちょっとした工夫で診察できることもある。そのような小さなエピソードの事例が載っていると良いのでは。 ・パンフレットを家族が見るのもとても参考になると思う。ちょっとした工夫で障害の狩る方が健康で地域生活を送れるきっかけになると思われる。 ・パンフレットに医師のコラムがあると良い。 ・各関係団体から困ったことや医師にされて嬉しかったことや上手くいった例を集めてみると良いのではないか。 ・パンフレットを作成する予算は30万円程度。業者に依頼する場合には100部製作可能。医療機関は89。著作権がクリアされればインターネットでダウンロードすることは可能。  第3回ワーキング (開 催 日)  令和6年2月27日(火) 午後7時から9時 (開催場所)  調布市総合福祉センター 201~203号室 (出 席 者)  委員10名 事務局7名  (内容)  「障害当事者の医療アクセスに関するアンケート」の集計結果をわかりやすい形式に修正したため,その結果を踏まえて意見交換を行い,次年度の方向性を確認した。 (主な意見) 【アンケートの集計結果に対する意見】 ・予想以上にかかりつけ医がある方が多く,医療機関に対する評価が良かった。  1,000通郵送した結果,約50%の回答率であったため,バイアスがかかり深くニーズを掘り下げることは難しかった。 ・回答者の内,70代以上が4割を占め,若年層の回答が少なかった。手帳所持者は高齢者が多いので,少数の方の意見から大きな課題が見えてくると思われる。 ・知的障害と精神障害の若年層の方のクロス集計をかけることで知りたいことが見えてくると思われる。 ・精神障害の方は精神科をかかりつけ医ととらえている方が多い。他科の診療を拒否する方は,体調不良の際に親のかかりつけ医に行くことが多い。 ・「長時間待つことが難しい」「相談内容を医師に適切に説明できない」という点では,3障害の課題が共通している。 ・「丁寧な応対」がキーワード。医療機関側が障害を理解しようとしてくれている姿勢が伝わると安心感につながり,相互理解を図ることができる。 【健康診断についての意見】 ・健康診断の情報がきちんと届いていれば受ける可能性がある。 ・知的障害の方の場合には作業所での健康診断のみ受けているという方が多い。費用の面で受けることが難しくなっている事業所もあるので,作業所単位で受けられるようになると良い。 ・特定健診は40歳以上の方が対象だが,障害のある方は加齢が早く,慣れるために数年単位で準備が必要なので20代から受けられることが望ましい。医療機関側も回数を重ねることで障害のある方の応対に慣れることができる。 ・単身の障害者の方は健康診断を受けていない方がほとんど。受ける必要性を理解していない,健康なので面倒,入院させられることが怖いなど理由は様々。 ・情報アクセスの問題に関しては,市の方でも課題を認識しどのように広げていくか検討する必要がある。 ・往診で健康診断を受けられたら良い。在宅ではできる項目が限られているので,検診の機械をレンタルできるようになることが理想。 ・視覚障害の方の場合には,慣れない検査に対する見えないが故の怖さがある。大腸がん検診は非常に難しかった。 ・身体障害の方の場合には,健康診断を受けられず,ガンが手遅れになってしまった事例がある。在宅で暮らす重度の障害のある方の場合には,自ら健康診断を受けに行く人は少ない。   【その他の意見】 ・在宅が長期化した精神障害の方で家族が全面的にサポートしている家庭も多い。病院間で連携し,精神科で他科の病院を紹介してくれたら良い。 ・調布市医師会が運営している「ちょうふ在宅医療相談室」にて適切な情報提供をしてくれる。 ・視覚障害の方の場合にはパソコンや携帯電話から情報を探すことが困難な場合がある。 (まとめ)  アンケートの結果では高齢の方からの返答が約半分を占めたが,かかりつけ医を持っている方が多く,医療機関に対する評価が高かった。全てに共通しているキーワードは「丁寧な応対」だった。医療機関側が障害を理解しようとしてくれている姿勢が伝わると障害のある方の安心感につながり,相互理解を図ることができる。  次年度は医療機関の方への障害理解を促進するためのパンフレットを作成する予定。障害のある方への理解を深めることが健康診断の場でも合理的配慮の提供につながる。また,調布市医師会が運営している「在宅医療相談室」は非常に丁寧な応対で,必要な医療の情報を提供しているため,パンフレットへの掲載を検討していく。第2回ワーキングで配布した「医療機関における障害者への合理的配慮事例集」を参考にして委員の方々の意見を集約した上でたたき台を作成する。障害のある方への配慮点のみならず,良かった例も組み込んでいく予定。  障害のある方が健康診断を受けやすい環境を整えることが合理的配慮につながるが,現状受けやすい環境ではないということが分かった。今後は,環境を整えるには具体的にどのように取り組めばよいのか次年度具体的に検討していく必要があるため,1年間ワーキングを延長することに決まった。  次年度は「医療アクセスに向けてのパンフレット作り」「健康診断受診時の課題解決の方法や配慮点の協議」の2点に焦点を絞り検討していく。   ■これまでの到達点  第1回ワーキングでは、障害当事者のアンケート集計結果487件の8割の回答者が、かかりつけ医が存在していて満足しているという結果が見られた。しかし、障害状況から受診が難しいという意見も見られたため、改めて障害種別・障害等級ごとにクロス集計を行い、具体的な課題の抽出について議論を進めていくことになった。  第2回ワーキングでは、アンケート集計結果から医療への相互理解を図るために、課題点や配慮点を集約した医療従事者向けのパンフレットの作成を目指していくことなったが、グラフ数値のみのアンケート集計結果からは課題を抽出することが難しく、改めてアンケートの集計結果について議論が必要であると指摘を受け、次回ワーキングにて改めて議論を行うことになった。  第3回ワーキングでは、アンケート集計結果の設問ごとに結果概要を設けて協議を行った。集計結果から医療アクセスへの阻害要因として3障害とも同様な課題が判明した。また、障害当事者の健康診断の受診についても課題点が多く来年度のワーキングにむけて検討が必要であることを確認した。 ■今後の展望と課題  次年度は、障害当事者の医療アクセスへの促進として、医療機関の方への障害理解を促進するための医療アクセスに向けてのパンフレット作りと、医療アクセスへの課題として病気の早期発見や未然に防ぐ健康診断を受けられるように健康診断受診時の課題解決の方法や配慮点の協議の2点について検討していく。  来年度第1回の開催にむけて、第2回ワーキングで配布した「医療機関における障害者への合理的配慮事例集」を参考にして委員の方々の意見を集約した上でたたき台を作成する。障害のある方への配慮点のみならず,良かった例も組み込んでいく予定。