5-2 学齢期の福祉教育を考えるワーキング 報告書 1 目的   教育現場では以前より授業の中で福祉教育が実施されている。その方法はゲスト講師による講話や疑似体験など多種多様である。一方、調布市では今年度から「障害当事者講師養成研修」を開始し、障害当事者が自らの経験をもとに講師として、「地域で活躍する」ことが期待されている。そこで、こうした調布市の取組を含め地域の中で福祉教育を展開するために教育と福祉の連携について協議を行うこととなった。 2 ワーキングにおいて取り組む主な内容について   調布市内の教育機関に対して、福祉教育に関するアンケート調査を実施・分析を行う。その分析をもとに、教育機関が抱える課題や福祉教育に関する要望を把握し、福祉教育の実施方法や教育内容について検討する。 3 ワーキンググループメンバー(敬称略)  座長 谷内 孝行  (桜美林大学 健康福祉学群 准教授) 髙江洲 幸男 (当事者) 佐々木 翼  (当事者) 桶川 宜登志 (調布市立第一小学校 校長)  原田 勝   (調布市教育委員会指導室 副主幹) 毛利 勝   (調布市心身障害児・者親の会) 田村 敦史  (調布市社会福祉協議会 市民活動支援センター) 大光 加奈子 (調布市社会福祉協議会 障害者地域活動支援センター ドルチェ) 吉野 強   (調布市社会福祉事業団 調布市障害者地域生活・就労支援センター ちょうふだぞう) 4 今年度の検討経過  第1回ワーキング (開 催 日)令和6年6月10日(月) 18時から20時 (開催場所)社会福祉法人新樹会 空と大地 (出 席 者)委員9人 事務局5人 (内  容) ・今年度の,学齢期の福祉教育を考えるワーキングの目的・方針・成果目標を共有 ・ヒアリング調査を実施する訪問校選びや質問項目についての意見交換 ・福祉教育(障害理解教育)の授業について,どのような方針で取り組むべきか意見交換 (主な意見) ◎福祉教育(障害理解教育)のヒアリング調査について(調査項目も含め) ・東京オリンピックパラリンピックが開催される前は,ボッチャや車いすバスケなど,パラリンピックにちなんだ内容が多かった。特別な予算がついていたため,力を入れるきっかけになっていた。 ・福祉教育アンケートを実施した学校の中で,オリンピックやパラリンピック以外の内容で福祉教育に力を入れている小学校2校,中学校1校を対象にヒアリング調査を実施すると,どのような内容で行なっているのかを知ることができると思う。 ・福祉教育に取り組む時間数はクラス数の多さ,支援級の有無が影響すると思われたが昨年度のアンケート結果を見るとあまり影響はなかった。 ・支援学級や特別支援学校との交流も福祉教育の一つである。 ・福祉教育を継続的に実施するとした場合,方法やツール,手段などに焦点をあてて学校側に質問しても良いと思う。ヒアリング調査を行うことで,学校の現状を把握することができ,教育と福祉の連携に繋がると良いと思う。 ◎福祉教育(障害理解教育)の授業を実施するための指導案について ・ねらい,目的 60分の授業時間では「自分たちの住む社会には,さまざまな人がいることを知り,街にはまだ不便がある」に焦点を当ててみてはどうか。限られた時間で理解まで求めることは難しいと思う,90分は長すぎて児童の集中力に限界がある。 ◎導入 ・障害の社会モデルの『障害』を最初から捉えることは難しい。『障害』を他の言葉に置き換えることで伝わりやすくなると思う。また,社会モデルの捉え方を伝える際にも伝えやすくなるかもしれない。 ・運営方法や授業の進め方など,教育関係者に協力してもらいながら作成することにより,児童に興味を持ってもらえるプログラム作成につながると思う。 ・小学校4年生には「障害」とは何かを伝えることは難しいと思うが,教師や運営側が障害の社会モデルのねらいを知っておくことは大切である。 ◎授業内容 ・昨年12月に小学4年生を対象とした第一小学校での授業は長時間のプログラムだった。この授業展開では児童の興味には繋がらないので,さらなる工夫が必要だと思う。 ・当事者からの生の語りは大切であると思う。動画だと本来伝えたいことは伝わりにくいのではないか。どのような不便があるのか,どのような生活をしているのかなど,対話形式があった方が良い。 ・実際,車いすに乗って操作をすることで,体験を通じて社会の側の「障害」の存在を知ることができると思う。 ・体験内容も疑似体験ではなく,「椅子を並べて,映画館の車いす席がないバージョンを再現したり,車いす利用者がどのように利用するかをクイズ形式で実施する」や「当事者2名と児童が自動販売機で飲み物を購入するなど,それぞれの不便や工夫点等を比較しやすい状況を作る」等があると具体的な気づきとなる。 (まとめ)  昨年実施した福祉教育アンケートをもとに福祉教育の実施時間が多かった学校を対象にヒアリング調査を行うことになった。調査では,福祉教育の運営方法や取組内容,現在課題と感じている内容などを中心に実施する。また昨年度,小学4年生を対象に実施した福祉教育のプログラムについては内容が難しい部分があったため,時間配分や言葉選び等,教育分野の先生方の意見を伺いながら作成する。  第2回ワーキング (開 催 日)令和6年9月25日(水)  18時から20時 (開催場所)社会福祉法人新樹会 空と大地と (出 席 者)委員7人 事務局5人 (内  容) ・調布市の福祉教育(障害理解教育)の取り組み(教育委員会指導室 原田副主幹より) ・昨年実施したアンケートをもとに実施したヒアリング調査の結果報告 ・障害理解教育の指導案について意見交換 (主な意見) ◎ヒアリング調査の結果報告について ・昨年度実施した福祉教育(障害理解教育)のアンケート結果をもとに取り組んでいる時間数が多い学校(小学校2校,中学校1校)に訪問し,ヒアリング調査を実施した。主に,事前事後の学習,内容を含めた取り組み状況について聞き取り調査を行った。 ・学校内で特別支援学校や支援級との交流する機会を設けていた。障害の有無に関わらず交流を通して,関係を構築することは大切である。 ・総合的な学習の時間で福祉教育を取り組むことが多い。教材や発表方法も変化してきていて,タブレットを使用したり,動画を用いたりすることも多いことが分かった。 ・A中学校の取り組みとして,1年生では「障害理解」を中心に調べ学習が行われていることが分かった。情報を提供するだけではなく,自分で調べることで,より理解に繋がると感じた。 ・今まで体験型で福祉教育を継続してきた。学校のみでは児童の教育は難しくなってきている。動画コンテンツや当事者との交流など,新しい教材があると,児童や生徒に新しい発見に繋がると思う。 ・学校間の情報共有として,調布市内で教科研究会という取り組みがある。 ・「障害理解」や「人権」に特化した授業を考えていいと思う。その上で疑似体験や交流をすることで,児童や生徒の障害理解が進む可能性があると思った。 ◎福祉教育(障害理解教育)の授業を実施する指導案の作成について ・「障害の社会モデル」「障害理解」の考え方を知ってもらう授業を実施するため,指導案の作成を開始する。限られた時間の中で,まずは「私たちが生活している社会には多様性な人たちが暮らしていることを知る」「誰もが暮らしやすい地域づくりを考える」を目的にイラストや写真などを用いて,児童たちが自分で考える授業内容を検討した。 ・前回第一小学校で実施した授業では,内容を詰め込み過ぎて,理解には繋がることは難しかった。しかし,障害理解までは至らなかったとしても,知る,考えることに繋げられるといい。 ・ワークとしては,児童の身近なところ(駅,コンビニ,小学校など)をイラストや写真を用意して発見してもらうことで,イメージが付きやすい。またワーク以外に人形や動画など動くコンテンツがあることで,興味に繋がると思う。 ・授業は前半にワークシートを使用しながら実際にグループワークで話し合い,後半は障害当事者講師が登場して,質問形式で児童と対話をする方式はどうか。 ・教材の活用方法や教材の保管方法なども今後検討していきたい。 (まとめ) 調布市の教育プランや各校のヒアリング調査を通じて,学校側の福祉教育の現状をより具体的に知れた。また,これまでのワーキングでの取り組みを学校にも共有することができた。 またワーキング内で考えている福祉教育(障害理解教育)の授業を実施するための指導案を作成していく中で引き続き児童の興味の引き出し方や授業内容などについて,教育関係の方々に協力してもらいながら検討する。そして,今年度も第一小学校の小学校4年生に向けて授業を実施することが決まった。そこで,ワーキングで作成した福祉教育(障害理解教育)の授業を実施するための指導案をもとに授業を行い,昨年度との児童の反応の比較,授業の進行など,ワーキングで振り返りをしていきたい。  第3回ワーキング (開 催 日)令和7年2月12日(水) 18時から20時 (開催場所)社会福祉法人新樹会 空と大地と (出 席 者)委員8人 事務局9人 (内  容)  ・第一小学校にて実施した障害理解教育の授業について報告,意見交換 ・今年度のワーキングの振り返りと来年度のワーキングについて意見交換 (主な意見) ◎第一小学校にて実施した障害理解教育の授業について ・12月10日第一小学校に児童や先生に協力してもらい、ワーキング内で検討した指導案 を使用して授業を行った。前半はイラストや写真をみて、「障害はどこにあるか」探すワークを行い、後半は障害当事者講師を招いて、先生や児童と質疑応答形式で行った。 ・今の授業の方向性として,「児童に考えてもらい,さまざまな意見がある」でまとめられることが増えてきている。「障害の社会モデル」については,具体的な定義づけした状態で伝える方が児童は理解しやすいと思う。 ・今までの福祉教育の授業は,「大変そうだ」「お手伝いしてあげたい」「助けてあげたい」などの意見が9割だった。今回の授業を受けた児童は,「楽しそうにしていた」「仕事をしているのがすごい」など,ポジティブな感想が多かった。児童からの率直な意見は大切にしていきたい。 ・後半部分で障害当事者講師の生活風景を見せながら質疑応答を行った。障害当事者から実際の生活について話をしてもらったが,個人モデルの方向になってしまった。前半のイラストや写真に繋がる話をすると障害の社会モデルの話に結びつきやすいと思った。 ・改善する箇所は多々あるが,指導案,ワークシートをパッケージとしてまとめておくのはどうか。それに合わせて,この授業の進行や運営方法などをまとめた動画があるとより児童に近い先生方に授業を行ってもらうことが出来るかもしれない。また調布市には障害当事者講師養成研修の修了生がいるので,生の声を動画として残しておくとさまざまな障害当事者の話を聞くことが出来ると思う。 ◎今年度のワーキングの振り返りと来年度のワーキングについて ・指導案を作成するにあたって,児童に伝えることを中心に考えてきたが,実際に取り組んでみると,先生や保護者など周りにいる人たちへの働きかけをすることで障害理解の促進に繋がると思った。 ・社会福祉協議会で実施している体験型のプログラム以外にもワーキング内で検討した指導案を新たなパッケージとしていい形に整ってきていると思う。今後,今まで積み上げてきたものをどのように先生方へ発信していくかを来年度のワーキングで検討していきたい。 ・障害当事者講師養成研修の修了生が動画や発信できる場に登場してもらえるといいと思う。そうすることで,精神障害や発達障害の社会モデルについても発信できるようになるかもしれない。 ・今まで福祉の立ち位置から教育機関と関わることが少なかったので,調布市にとっては大きな一歩だった。教育機関と福祉機関がワーキングを始めた当初より相談ができる体制が出来てきている。 ・調布市では毎年パラハート月間に「命の授業」いう名前で各学校が取り組んでいる。「命の授業」のように全学校が取り組む形になると自然と普及啓発が出来ると思う。 ・指導案を考えていく中で,伝え方の難しさを感じた。 ・学校に障害理解教育を届けるには,先生方に興味をもってもらうことが必要である。先生方が夏の期間に実施している研修で伝えられることも検討していきたい。実際に研修を受けた先生に意見をもらい,繁栄していくことでより良い授業が出来上がると思う。 ・今回は第一小学校で実施したが,今後は普段の授業で福祉を取りあげることが少ない先生方にも実際に授業をしてもらい,教材の内容をブラッシュアップしていけるといい。 (まとめ)  障害理解教育の授業を小学校で実施したことで,良かった点と改善点が具体的になった。特に授業内容の意味づけや学齢期の児童にも分かりやすい「障害の社会モデル」の伝え方,先生方への普及啓発方法について協議が必要である。  今年度は障害理解教育のヒアリングや指導案を作成し,授業を行ったことで改善点が分かった。今まで作ってきた指導案やワークシートなどを先生方が使いやすいようにパッケージとして教材をまとめておくことで,より福祉教育(障害理解教育)が普及啓発することに近づくと考えられる。 ■これまでの到達点 調布市の福祉教育(障害理解教育)の状況を知るため,昨年度実施した福祉教育(障害理解教育)のアンケートから小学校2校,中学校1校に対し,授業の運営方法などについて聞き取り調査を行った。この調査を通じて,学校の障害理解教育の状況について,詳細に知ることができた。また、ワーキングの取り組みについて共有し,学校と意見交換ができたことは今回の取り組みの成果の一つである。 また福祉教育(障害理解教育)を実施する目的や意義,教育内容,教育方法について検討する中で,教育関係者とともに障害理解教育の授業(小学校4年生を対象)で使用する指導案を作成した。「障害の社会モデル」「障害理解」について,どのような方法で伝えていくか,昨年度の課題である時間配分や興味を持ってもらう方法等を検討していく中で,「今暮らしている地域には多様な人たちがいることを知ってもらい,誰もが暮らしやすい地域づくりについて考える」という内容に至った。ワーキング内で検討を続け,実際の授業ではイラストや写真などを用いて,「障害」になる部分はどこかワークを行い,障害当事者の講師と対話を行う形式で実施した。授業中の児童の反応をみたところ,個人に焦点が当たってしまう場面もあり,今後も検討が必要となる。一方で当初の目的の一つである「私たちが生活している社会には多様な人が暮らしていることを知る」という授業の狙いは達成されたと思われる。そして,障害理解教育の授業を通して,児童が暮らしていく上で継続して考えて欲しい。授業にとどまらず自宅に帰ってからも児童から保護者などと授業内容を共有し,気づきの循環にも期待したい。そして今まで作ってきた教材を先生方が使いやすいようパッケージ化して教材をまとめておくことで,より福祉教育(障害理解教育)が普及啓発することに近づくと考えられる。 今年度も教育関係の方々が関わっていただいたことで専門的な立場から意見交換ができた。継続的に教育と福祉が意見を取り交わし,協働していくことの意義について改めて,確認した。今年度もワーキング以外にもさまざまな機関の方々と繋がれたことは大きな成果であり,来年度のワーキングにも生かしていきたい。 ■今後の展望と課題 今年度作成した教材を先生方が使いやすいパッケージとしてまとめて,一つひとつの内容について目的を明確化していく。「障害の社会モデル」について、児童だけではなく先生方に分かりやすい言葉で伝える方法についても検討する。また先生方や教育委員会にも実際の教材を見ていただきご意見をもらうことで,『教育プラン』にもあげられている「豊かな心の育成」の実現を目指し,よりよい授業内容に繋げていきたい。そして教材の作成と同時に授業パッケージをどのように取り扱い,普及啓発方法についても検討する。 この授業を受けた児童や先生方が地域で生活していく中で障害理解を考える機会に繋がることを期待したい。