陳情文書表(令和8年8月21日受理) 受理番号 陳情第42号      件名 成立した「個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律」に関し、未施行のまま廃止する、または再改正を求める意見書を国会等に提出を求めることに関する陳情 提出者の住所・氏名 ※非公開情報 付託委員会 総務委員会 ※原文のまま記載 【陳情の趣旨】 AIの開発や統計作成などに限って本人同意は不要とされる「個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律」に対し、本人同意の必須化、本名・住所・本人が公開していない要配慮個人情報(人種・社会的身分・犯罪被害歴・思想・信条)の提供を行わない抜本的な修正、または廃案を求める意見書を提出することを採択していただきたく、陳情いたします。 【陳情の理由】 さる7月17日に公布された「個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律」(以下、本法律)は、未だ施行前の段階にありますが、市民の心身の安全に対して重大な影響を及ぼす懸念が指摘されています。 具体的には、以下の点が大きな問題であると考えます。 1 市民生活への直接的な実害と深刻な差別・犯罪リスク 1.1 差別の発生 本人が公開していない、中絶、遺伝病、不治の病、難病、あるいは人種、社会的身分、犯罪歴、犯罪被害歴、思想、信条などの「要配慮個人情報」が取得・漏洩した場合、就職、結婚、ローン審査などを理由なく断られるといった、人生を左右する重大な社会的差別を生む温床となります。 1.2 生成AIによる実名プロファイリング 本法律改正の目的であるAI開発において、本人の同意なしに個人情報が集積され、生成AIなどの学習に利用されることで、検索をかけた際に実名やプライベートな情報が予期せぬ形で公に露出する危険性があります。 1.3 犯罪組織(トクリュウ等)への情報流出 松本尚デジタル大臣自身も「個人情報がいろんなところに漏れてしま うという懸念があることは十分承知している」と発言している通り、一元化されたデータから万が一漏洩が起きた際、それが誰によって漏洩したのか追跡することは困難です。流出した家族構成や住所などの情報が、トクリュウ(匿名・流動型犯罪グループ)などの犯罪組織に把握されれば、市民が直接的な凶悪犯罪の標的にされる、もしくは加害者側に情報を利用される恐れがあります。 1.4 犯罪被害者の安全確保の形骸化と二次加害・再犯の危険性 ストーカー、ドメスティックバイオレンス(DV)、性犯罪、その他 凶悪犯罪の被害歴・相談歴といった極めて機微な情報が、本人の意図しない形で収集・利用されることで、事件に関係のない第三者や加害者自身に情報が漏洩する懸念が拭えません。万が一、これらの情報が漏洩、またはデータ分析によって個人が特定された場合、事実無根のバッシングや偏見による深刻な二次加害が発生し、被害者の尊厳が公に傷つけられる恐れがあります。さらに、加害者個人や加害者が勤務する企業等にデータが渡った場合には、被害者への逆恨みによる再犯や新たな凶悪犯罪を引き起こす危険性が極めて高いと言わざるを得ません。 2 医療機関(提供元)への過度な負担、医療に対する信頼失墜の懸念 2.1 資本の力関係による拒絶の困難さ データ提供元である病院が提供を断る権利は存在しますが、巨額の報酬を提示される。または、親会社や子会社などの資本的・政治的な力関係が存在する場合、現場の医療機関が提供を拒否できない同調圧力が生じます。 2.2 現場の判断負担の増大 提供の可否や安全性の確認という極めて重い判断責任が個々の医療機 関(提供元)に委ねられるため、医療現場への業務負担が過大となります。 2.3 医学の進歩に対する逆効果 患者が「病院から信頼できない企業や民間事業者に自分のデータが提 供されるのではないか」と不信感を持てば、病院に対して正確な病状やプライベートな健康状態を話さなくなります。結果として医療機関への信頼が損なわれ、情報収集や医学の進歩において完全に逆効果を招きます。 3 捜査機関等による乱用と思想・信条の自由の侵害 3.1 統計目的を隠れ蓑にした事実上の監視 例えば警察が「死因を調べるための統計」といった大義名分を掲げれ ば、市民のデータを合法的に取得することが可能になります。過去に風力発電反対の市民団体の病歴や職歴を警察が事業者に提供し、裁判で違法と判決を受けて情報の一部を抹消した事例が示す通り、警察等による情報収集は極めて重大な市民監視につながるリスクがあります。 3.2 匿名アカウントの紐付けと内心の自由の侵害 思想・信条の内容によっては、ユーザーがニックネームで投稿したも のであっても、SNS事業者がAI開発を行うために匿名化されていない個人情報を収集していた場合、その投稿内容を実名・住所とともに捜査機関などに提出させられるスキームへと悪用される恐れがあります。これは憲法第19条(思想・良心の自由)を根底から揺るがします。 4 ガイドラインや運用対応の限界 4.1 法的拘束力の欠如 松本尚デジタル大臣はガイドラインなどで情報の受け手が不要な実名 を削除、使用後は元データを確実に削除することを盛り込むと説明していますが、それらには法律のような強い拘束力がありません。情報漏洩や悪用が起きた際の罰則や抑止力としては限界があります。イギリスでは 2026年4月に50万人分の医療データが流出し、中国のアリババが運営する消費者向けWebサイトで販売リストに掲載された事案が発生しましたが、幸いにも仮名化していたことで個人の特定を防ぐことができました。しかし、本法律のように、十分な加工(仮名化・匿名化)の義務付けや安全管理措置に法的な穴があれば、売買の成否に関わらず、リストに載った時点で直ちに個人が特定される致命的な事態に陥る懸念があります。 4.2 課徴金制度の抜け穴 本法律では、1,000人以上の大規模な個人情報を不正取得・利用した事業者に対し、利益の相当額を課徴金として国庫に納付する規定が設けられました。しかし、「999人以下」の不正取得・利用に対する実効性のある罰則措置が著しく欠落しています。 【陳情の項目】 1 病歴以外の本名・住所・要配慮個人情報の提供を不可とすること。 もしくは、提供における本人同意の必須化、提供元から加工(仮名 化・匿名化)を必須化すること。 2 個人情報を不正取得・利用・漏洩した事業者に対しての厳罰化を本 法律にて徹底すること。 3 消費者団体による団体訴訟制度を認めるなど、被害者への救済措置を設けること。 4 本法律の施行を延期し、問題点の修正や国民への十分な説明を行うこと。それらがなされない場合、廃案を含めた抜本的な見直しを行うこと。 【まとめ】 テクノロジーの発展や統計の有効活用自体は適切に行われるのであれば非常に良いことですが、AI開発において先進的なアメリカでも実名の削除が原則となっているように、あくまで個人を保護するものでなければなりません。一度漏洩した個人情報は二度と回収ができません。自身に起こっている変化がどこからの情報提供に起因するのか把握できない。このような市民の信額と安全が担保されない拙速な法改正は、社会の根幹を揺るがします。地方自治の本旨に則り、住民の生活と人権を最も身近で守る立場である地方議会から、国に対して慎重な対応を求める声を届けていただきますよう、心よりお願い申し上げます。 以上