市民参加プログラム策定に関する提言   平成15年7月27日 市民参加のしくみづくりを話し合う会 ■ 市民参加プログラムの基本的な考え方 「市民参加のしくみづくりを話し合う会」では、これまで21回にわたって市民参加のしくみのあり 方について議論を重ね、様々な問題点を抽出し、解決策の案について模索してきました。以下の提言は、 ここまで積み重ねられてきた議論に基づいて、現時点までに集約された調布市の市民参加における問題 点と解決に向けての方向性を示したものです。これは、市政に市民が実質的に参画しているという状況 を創り出し、それを維持・発展させていくためのしくみを確立するため、市民と行政が協働しながら段 階的に実現していくべき具体的方策と考えています。なお、提言は、7つの部分から構成されています が、各部分がお互いに関連しあっているために重複するところは少なくはありません。何度も繰り返し 述べられている部分は、おそらく、会において本当に繰り返しの議論になった部分であり、市民がまさ に現状での問題であると考えている部分であると言えます。 この提案は、行政に対して「あれが欲しい」「こうして欲しい」ということをいうような単なる要望・ 要請ではありません。「市民参加のしくみづくりを話し合う会」で長く行ってきた議論に基づいて、将 来の「市民参加のしくみ」を見据えながら建設的な提案をさせていただきました。よりよい市民参加の しくみをつくり、調布市を住みよい町にしていきたいという想いは、行政活動に携わる職員の方々も、 市民活動に携わる市民も同じだと思います。この提案を単に「できるか・できないか」という観点でと らえていただくのではなくて、この提案について行政と市民が対話しながら実現させていきたいと思い ます。 ■ 提言の骨子 (1) 「市民参加のしくみ」における情報の共有 →計画策定段階・意思決定過程についての情報を開示する →市民の苦情・意見や提案等を集積するシステムを構築する (2) パートナーとしての能力向上 →施策分野ごとに日常的なコミュニケーションの場をつくる →市民と行政をつなぐリーダーを積極的に発掘していく →市民参加の時代に合わせて職員の勤務条件を変更する (3) 市民がすべての段階で参画できるしくみの確立 →構想段階・計画策定段階で市民を事業に巻き込む →実施段階での市民の自己決定を重視する →評価結果を公開する (4) 市民の提案を施策に反映するしくみの確立 →市民による、市民のためのサポート組織を設立する →市民のニーズをまず市民の中で調整する →行政内部に情報の一元化・集約する組織を設立する →市民提案に対するフィードバックを行う (5) 市民を中心とした市民参加のしくみ全体の評価・改善 →市民による評価を積極的に行う →市民参加のしくみ全体を評価する専門委員会を設立する (6) 行政の役割 →市民のサポーターという位置付けへ →行政の役割・責任、何が可能で何ができないかを明らかにする (7) 市民の役割 →行政に任せきりではなく自己研鑽を行う →市民団体が提言機能を拡充させていく ■ 提言 (1) 「市民参加のしくみ」における情報の共有 市民が主役となるまちづくりを実現するためには、その基礎として行政と市民の情報の共有化を図る ことが不可欠です。しかしながら、調布市においては、行政と市民の間で必ずしも必要な情報がやりと りされていないのが実情です。参加の基礎を築き、行政と市民の間での厚い信頼関係を結ぶためにも情 報の共有に努めることが必要です。 市民への市政情報の提供 市民参加を進めるに当たって、情報の共有は欠かせないものです。これまで、行政は市報やその 他さまざまな情報伝達の媒体を通じて情報の提供に努めてきた実績はありますが、施策の決定や事 業計画の策定にあたって、市民に対して常に的確な情報が迅速に提供されてきたとはいえません。 また、市民から行政のさまざまな窓口に個々に寄せられてきた苦情・意見や提案が全庁的に集積 されておらず、それが行政課題であるか否かの判断や、寄せられた意見がどのように市政に反映さ れていく経過が市民に公表されていないのが実情です。 施策の決定や事業計画の策定にあたっては、実施する目的と理由、市民生活における効果、計画 から決定までの意思決定の過程などの情報を市民に広く提供し、市民と共有することが望まれます。 これらの情報は、決まってからの情報ではなく、行政が何をしようとしているのか、何を問題だと 考えているのか、を早い段階から公表し、市民と一緒に考える機会を作ることが必要です。 市民が持つ情報の共有 市民が行政に伝えたい苦情・意見や提案があっても、どこに伝えればよいのか分からないとか、 行政に訴えてもなかなかとりあげてもらえないということで、初めから敬遠したり諦めたりしてい る市民は少なからずいるものと思います。この、市民の苦情・意見や提案は、行政が適切に市民ニ ーズを理解して行政運営を行うために重要な情報となるものの、現在のしくみでは、個別の市民が 持つ情報を行政・市民の間で広く共有し、市政に活かすことは難しいと思います。 情報の共有は、必ずしも行政が市民に情報を提供することによるものだけではありません。行政 が市民の意見の把握に努め、もともと市民が持っていた情報を共有化することで、市民ニーズをと らえたよりよい行政運営に繋げることができると思います。 市民意見の集積 せっかく市民が苦情・意見や提案を伝えても、それを集積するしくみがなければその意味はなく なります。様々な窓口に寄せられた市民の意見等を庁内全体で一元的に集積するしくみがまだ調布 市にはありません。どの部門にどのような意見がどれだけ寄せられ、どのように処理されたか、と いう経過や結果が、全庁的に把握されていないのではと感じています。 集積された情報を分類・分析することにより、市民が何を求めているかを把握し、市の行政課題 を抽出すると共に、その意見を検討して明日の市政に生かすためのしくみづくりが必要です。 市政情報処理システムの構築 情報を提供し、共有する手段として、市報・ホームページ・調布ケーブルテレビ・調布FMなど いろいろな媒体が考えられますが、今後はその一手段として市に対する市民の苦情・意見や提案を 庁内全体として集積し、検討し、施策に反映していく市政情報処理システムの構築が必要です。そ のためには庁内に日々寄せられる情報を蓄積し、その苦情・意見や提案への対応や処理について記 録していくことが大切です。そして、その情報はデータベース化することにより、誰でも、いつで も、容易に入手できるものでなくてはなりません。 具体的には、市民の日常の苦情・意見や提案に対応した担当職員がその場で庁内のコンピュータ ーに入力を行い、情報をコンピューターに蓄積します。その情報は同時に「総合調整室(仮称)」 に集約され、そこから実施部門に振り分けられます。行政内部での施策の提案等も同様に担当から 「総合調整室」に集約され、同じように実施部門に振り分けられます。(→この部分については同 時に(4)もご参照ください) 従来、市民の苦情・意見や提案は関連した実施部門のみの外部に閉じた場所で処理されていたた め、その処理の経過が外部からは見え難く、正当に扱われていない場合でも異議を申し立てる先が 無いのが実情でした。このような実情に対処するためには、行政組織の中に「総合調整室」のよう な情報を集約する機関を新設または再編成して、市民の苦情・意見や提案が、計画から実施に至る まで実施部門でどのように処理されたかを全庁的に統括・管理し、内容を評価することが必要です。 そして、その情報を行政内部で閉じるのではなく、一般市民が行政職員と同じように、計画から実 施・評価に係わる経過を容易に知ることができるしくみを作ることが重要です。 実際にこのような情報管理システムを構築するに当たっては、どのような内容をどのように蓄積 するか、あるいはどのようなシステムが使いやすいのか、情報をどのように分類するか、というこ とが具体的な問題となります。行政は、市民との情報の共有化を適切に図るために、システムの設 計の段階から市民と連携して取り組んでいく必要があると思います。 (2) パートナーとしての能力向上 市民参加によるまちづくりを進めるためには、市民と行政のパートナーシップが必要となります。そ の前提として、行政職員は市民参加に対する幅広い知識や深い理解が必要となり、市民参加手法にも習 熟する必要があります。また、市民も同様にパートナーとしての基本的な力量やマナーを備える必要が あります。 調布市には、様々な知識・技術・能力を持った市民が多数住まわれているものと思います。しかし、 現実にはそのような市民の力が市政に十分発揮されているとはいえません。このような人々に市政の主 人公は市民であるという自覚を促し、市民がその持てる能力を十分に発揮することができるように、行 政・市民双方での環境整備が重要です。 行政と市民のコミュニケーションの場 現在、行政と市民が日常的にコミュニケーションをする場は「市長と語る・ふれあいトーキング」 などがありますが、現場の行政職員と行政サービスの利用者である市民が、継続して意見交換・議 論をする場はほとんどないと思います。また、そのような場があったとしても、行政職員と市民の 個人的なネットワークに基づくものが多く、外部に対しては閉鎖的な性格を持つことは否めません。 そこで、施策分野ごとに、日常的に行政と市民が意見交換・議論できるオープンな場を設置するこ とが必要だと思います。 具体的には、事業の計画段階や評価における対話ということになりますが、その際に行政職員は、 単に「市民の意見を伺う」という姿勢をとるのではなく、市民とじっくりと問題点を議論し、対策 を一緒に考えていく必要があります。議論の場に参加する市民にとっても、せっかくの議論が活か されなければ、その後のさらなる参加に向けてのモチベーションの維持は難しいと思います。行 政・市民がお互いに率直に対話する機会を持ち、信頼関係を積み上げていくことが、市民参加によ るまちづくりの第一歩となります。 リーダーの発掘 市民参加を円滑に進めていくためには、行政や対象となる分野についてある程度の専門知識を持 ち、集まってきた市民の意見を調整することができるリーダーの存在が必要となります。最終的に はリーダーが意見を集約しない限り、市民参加とはいうものの市民が各個人でバラバラに意見を述 べ合うだけに終わってしまうおそれがあります。今後、市民参加が重要性を増す中で、市民の中で リーダー的役割を担える人を発掘し、育てることが重要となります。そのために、まずは希望者を 募ったうえで会議の運営(ファシリテイト)や行政についての専門知識を得るための研修を行って いくことが考えられます。また、市民リーダーの養成に当たっては、行政のイニシアティブだけで はなく、市民団体の役割も重要となるはずです。 リーダー的資質は、市民の側だけに必要なわけではありません。行政職員にも同等の、あるいは より以上の資質が求められます。行政職員も、市民からの苦情・意見や提案にどのように対応する か、あるいはそれを行政運営にどのように活かすことができるか、というノウハウを蓄積させてい かなくてはなりません。また、市民参加の場面においては、参加者を納得させつつ実行可能な形で 議論をまとめていくことが要請されます。このような資質は、単に決まったプロセスを踏めば獲得 できる、というものではありませんが、行政内部での研修や、市民との実際的なやりとりの経験が 重要となるのは間違いないと思います。 職員の勤務条件 市民参加を進めていくうえで、現行の勤務体制のままでは、職員にとって「市民参加」が大きな 負担となりかねない場合があります。特に、一般市民が参加可能な時間と行政職員の勤務時間が合 わないことは大きな問題です。仕事をしている市民にとって、現実的に市民参加が可能な時間は、 ほぼ平日の夜間や土日といった行政職員の勤務時間外になりがちです。この時間に勤務することは 職員にとって超過勤務を強いることにならざるを得ないため、現状に見合った形での勤務体制を確 立することが必要となります。 また、市民参加を考える際には、職員の評価基準についても改善の余地があると思います。市民 参加を進めるためには、市民参加に対して積極的な姿勢を持つ職員を高く評価することで、職員の やる気を生み出すことができるのではないでしょうか。現状のように、市民参加が時間外勤務を必 要としている状況では、職員としても負担が大きくなり、その勤務の部分が正当に評価されない限 り、十分な力を注ぎこむことが難しいと思います。市民参加への姿勢を評価することで、この問題 はある程度克服できると考えます。 (3) 市民がすべての段階で参画できるしくみの確立 事業を行うに当たっては、計画の構想段階から市民参加を行って、事業の進行管理から評価まで一貫 して参加できるしくみが必要となります。計画が策定されて変更がきかない状態となって初めて市民に 公表するのでは、たとえパブリック・コメント(※)を求めたとしてもそこから事業の見直しがなされ ることは難しく、行政に対する市民の不信感を生むことにつながりかねません。 市民が全ての段階で参画できるしくみを確立することで、行政に対する市民からの信頼を生み出し、 より良い市民-行政の関係を築くことが可能になると思います。 (※)パブリック・コメントとは、行政機関が政策の立案等を行おうとする際にその案を公表 し、この案に対して広く国民・事業者等が意見や情報を提出する機会を設け、行政機関は、提 出された意見等を考慮して最終的な意思決定を行うというものです。 構想段階への参加 施策の決定、事業計画の策定に当たっては、市民のニーズを把握することが最も重要になります が、現在のしくみでは、誰が市民ニーズを判断し、どのようなかたちで取り入れられているのかは 必ずしも明らかではありません。今後、市民参加を進めるにあたっては、行政に寄せられた市民ニ ーズを整理して公開し、関心のある人や団体を巻き込んでいかなくてはなりません。 そのためにはまず、(1)であげた情報の共有化を進めて市民が苦情・意見や提案を伝えるための 前提を築く必要があります。さらに、市民の提案を施策に反映するしくみを確立(→(4))するほ か、日々の市民意見の整理方法を明確にすることや、各種委員会の市民公募枠を拡大して直接的に 市民の意見を取り入れることも重要です。 中間段階・計画策定の際の参加 ここで言う中間段階・計画策定の際の参加は、これまでの市民参加の中でもっとも疎かになって きた部分であると思います。多くの市民がほとんど何も知らされていない状態で計画策定が進み、 計画を変更するのが難しいところで発表されて反対運動が起こる、という構図は調布市のみならず 様々な自治体で繰り返され、行政と市民の相互不信を招く原因となっていました。 今後進められていく市民参加では、このような相互不信を繰り返さないためにも、インターネッ トなどを通じて計画作りの中間段階で繰り返し市民への周知・公表を行い、計画の具体的な内容に ついて市民と行政がやり取りする場を設ける必要があります。また、計画について市民の意見を募 集する制度としてパブリック・コメントがありますが、これについても計画の変更が難しい状態に なってから募集してもほとんど意味はないものであるために、計画の中間段階での募集を積極的に 行うべきだと考えます。 実施段階・運営への参加 事業の具体的な実施については、これまで行政が主に執り行ってきましたが、現在の地方分権の 流れを考えると、今後市民を中心とした実施体制というものが真剣に検討されるべきだと思います。 全国的にいわゆる「公設民営型」の施設は増えており、特に施設管理などの分野で、運営に当たっ てある程度の権限が利用者である市民に委譲されることは珍しくありません。 市民が実施段階に関わる中で、自分たちの希望を実現していくために、行政にどのくらい資源が あるのか、そして市民がどれだけ負担しなくてはいけないのかということをお互いに話し合い、理 解しあっていかなくてはなりません。市民が自主性を持ちながら行政と協働していくためには、行 政が自分たちにできること・できないことを市民にきちんと説明する一方で、市民の側も自分たち の責任を意識し、責任を果たせない場合には役割分担の再検討を行うことが必要となります。 評価段階への参加 評価の重要性は近年つとに指摘されていますが、実際に市民が評価に関わる事例はまだまだ少な いのが現状であるといえます。経済の不振、財政状況の悪化が続く中で、より必要な事業を効率的 に行うために、事業の評価に積極的に市民の声を取り入れ、その後の事業に活かしていかなければ なりません。そのためには、まず、評価に市民がかかわることができる状況を創り出すことが重要 となります。そのために、実施事業について市民へのアンケートを行い、その公表をすることは、 市民が評価にかかわる第一歩と言えるのではないでしょうか。さらに、いくつかの重要な事業にお いては公募された市民が定期的に評価・モニターをするしくみをつくることでも、市民は評価に携 わることが出来ます。このような方法をとるときに、重要なのは評価結果を公表することであると 考えます。評価の内容が悪い場合、公表に踏み切るのには勇気が要りますが、悪いと評価された部 分はその時点の評価として受け止めて、事業の見直しを図ることが必要です。 また、市民も、評価のしくみを行政だけに任せるだけでは十分ではありません。個別の市民が事 業評価を行うことは難しいと思いますが、市民団体レベルで自分たちの得意な分野について行政の 実施事業を評価することは可能です。その際は、単なるないものねだりや、十分な吟味をせずに「こ れはだめ、あれもだめ」と批判するのではなくて、行政の資源にも限りがあることを理解したうえ で建設的な評価を試みることが重要です。もちろん、市民団体が行う評価が、そのプロセス・結果 についても公表されることが望ましいのは言うまでもありません。 (4) 市民の提案を施策に反映するしくみの確立 これまでも市民からの提案が様々なかたちでなされていますが、その中には施策として実現したもの もあれば、立ち消えになったものもたくさんあります。事案の中には検討の対象になったのかどうかも 不明なものもないとは言えません。 これは行政の意思決定の過程がわかりにくいことも起因しております。今後は、市民からの苦情・意 見や提案等を一元的に取り扱うことも視野にいれながら、行政の意思決定過程の中に位置付けていく必 要があります。それによって市民の提案というかたちでの参加を制度的に保障できると考えます。 市民による「市民相談窓口(仮称)」の設立 行政に対して苦情・意見や提案がある市民であっても、それをどこにどのように伝えればよいの かということはなかなかわかりません。また、市民から出される苦情・意見や提案は、行政から見 るとどのように分類・対応するべきなのかがわからず、対応に苦慮するということも少なからずあ ります。市民からの苦情・意見や提案を行政に適切に伝えるためには、この両者の橋渡しを行い、 特に市民が苦情・意見や提案をしたいときのサポートを十分に行うことができる資源と能力を持っ た「市民相談窓口」の設立が必要になると考えられます。 ここで提案されている「市民相談窓口」は、市の組織の外にあって、市民が主体となって運営す るものを想定しています。この「市民相談窓口」で、市民から出された苦情・意見や提案をより洗 練されたものにして行政に提案を行うことで、市民のニーズをまず市民の中で調整することができ ることになります。「市民相談窓口」が市民のニーズを吸い上げ、独自の提案を行うためには、ボ ランティアのような無償の奉仕のみに頼るのではなく、専門性を持った専従の(市の人事ローテー ションに入らない)スタッフを揃え、一定の責任を付与することが重要であると思います。 情報の一元化・集約のための組織 現在、市民から出された苦情・意見や提案は、市の各担当部門で受け付けたものも市民相談窓口 で受け付けたものも、一元化・集約されることなく担当部門に振り分けられ、苦情・意見や提案を 蓄積し、包括的に検討することが図られてはいないのが実情であると言えます。 そこで、市民の声をより効果的に収集し、蓄積していくためには、情報を一元化・集約するため の「総合調整室(仮称)」<以下(仮称)省略>を創設することが必要であると考えます。必ずし も新しい組織を作る必要はありませんが、これまでの組織を再編・統合するとしても、市民に対し て確実に責任を持ちうる組織としなくてはなりません。 ここでは、苦情・意見や提案等の情報を一元的に集約・蓄積・保存・管理し、担当部門(プロジ ェクト・チームを含む)への振り分けまでを行います。集約された情報はデータベースとして管理 され、関心ある市民の自由な閲覧に供されなくてはならないと考えます。市民の使い勝手のよさを 考えるのであれば、同じデータベースに、市民からの情報だけではなく、行政内部の計画策定が現 在どのような状況にあるのかという計画の中間段階での情報を置き、行政が計画中の事業全体に関 するデータベースという位置付けを与えるのが望ましいと思います。 市民へのフィードバック ここで提案されている「総合調整室」は、市民から出された苦情・意見や提案を担当部門に振り 分けた後、担当部門での検討状況をフォローアップするとともに、事業の進捗管理を行う必要があ ります。それは、「総合調整室」が、市民からの受けた苦情・意見や提案について、元の市民にフ ィードバックを行わなくてはならないからです。 これまでは、市民が出した苦情・意見や提案について、市庁内部でどのように取り扱われ、最終 的にどう処理されたのかは明らかにされなかったのがいわば常態であったといえます。これからは、 市民本位の市政を行う観点から、苦情・意見や提案の検討結果は、一定期限内に必ず、出した市民 本人へフィードバックすることが望まれます。そして、「総合調整室」は市民と担当部門の仲介的 な役割を果たすべき組織であると考えます。 ここであげられているような任務を遂行するためには権限が必要となります。「総合調整室」が 権限を持たず、担当部門から十分な情報を得ることができない限り、市民との橋渡しをしようとし ても、現実には市民からの信頼がなかなか得られないという事態が起きかねません。 なお、この組織が、情報の管理、プライバシーの保護には万全の注意を払わなければならないこ とは言うまでもありません。 (5) 市民を中心とした市民参加のしくみ全体の評価・改善  当然のことですが、いくら素晴らしいしくみを創っても、それが実際に機能しなければ意味がありま せん。今回提案した市民参加を促進する様々なしくみを、「画に描いた餅」にしないためには、しくみ 全体が効率的に機能しているかを市民の視点から継続的に評価する必要があります。 市民による「総合調整室」の仕事への評価・改善 「総合調整室」が市民からの苦情・意見や提案をきちんと取り扱い処理しているかどうかは、既 に述べた「市民の提案を施策に反映するしくみ」の生命線であり、この部分が市民に信頼されない 限り、いくら市民参加のしくみをつくってもうまく機能しないと思います。信頼を確保し、しくみ をうまく回すためには、市民自身がこのしくみを点検し、評価することが必要となります。そのた めに、定期的に市民が「総合調整室」の仕事を評価・モニターすることは重要です。 また、「総合調整室」の仕事を評価・モニターすることで、各担当部門がどの程度市民参加を重 視しているのかを明らかにすることができます。担当部門を個別に評価することは市民にとって大 きな負担となりますが、各担当部門を評価する「総合調整室」を見ることで、市民としてもより効 率的に市民の苦情・意見や提案がどのように取り扱われているかを確認することができます。 市民参加のしくみ全体を評価・改善する専門委員会 市民参加の現状を継続的に評価するためには、評価の専門委員会の設置が有効であると考えます。 どんなしくみでも、作ったその日から古くなります。しくみを取り巻く時代環境や人々の意識や価 値観は絶えず変化しています。そのような変化に対応するために、ここで提案されている専門委員 会は、上述の「総合調整室」を中心にしくみのどこに不具合があるのかを調べ、改善案を提言し、 しくみの進化をはかる機能を担います。調布市は基本構想で「みんながつくる・笑顔輝くまち調布」 を掲げ、市民参加を前提とした協働を市の基本姿勢としていますので、専門委員会による改善案は 市長に提言されることが望ましいでしょう。 専門委員会は半数以上を市民公募とし、会議・議事録は原則公開とします。そして、改善を求め たことに対しては、改善が実際になされるまでフォローアップをすることが求められます。 (6) 行政の役割 市民参加が進んでいくことによって、行政の役割が相対的に軽くなるわけではありません。市民と行 政が協働していく時代においては、行政は全市的な視野にたって調整を行い、市民をサポートしていく 役割が重要になります。もっとも、行政サービスの供給者・提供者から支援者・補助者へ、という役割 の転換については、1980年代ころから理念としては市民活動の支援・補助が謳われていたものであり、 現在は、それをいかに実現するかが問題になっていると思います。 活動支援制度の充実 まず、市民が活動をしやすい環境作りを進めることが必要です。ある日市民が問題意識をもった としても、何をどこからはじめてよいか分からない、という状況は珍しくないと思います。市民活 動の「初心者」である人々は行政から見ると勉強不足で無理なことを考えているように見えるかも しれませんが、現実には誰もが「初心者」から始まるわけです。新たに活動をはじめる個人・グル ープへの人的支援も含めて、市民活動の「芽生え」を支援することは、将来の市民参加の拡大に向 けても非常に大きな意義があると考えます。将来的には、行政内部にそのための専門スタッフを育 成することも必要となるかもしれません(市民活動のインキュベーター)。 さらに、既に活動を行っている市民団体への活動助成もひとつの大きな役割であるといえます。 非営利の市民団体は運転資金も厳しいところが多く、参加している市民の持ち出しが少ないわけで はありません。そこへ助成の拡充を行ったり、会議室スペースの提供を行ったりすることで、市民 団体に係わる個人の負担を減らし、より多くの参加を生むことができるのではないでしょうか。そ の際の具体的な方法としては、単に行政が市民団体を選んで助成を行うだけではなく、例えば杉並 区が既に導入しているような、市民自らが市民団体を選んで自分が払う税金の一部から助成を行う、 という制度も検討に値するものです。 市民団体間の調整・交流促進 市民参加を今後さらに広げていくためには、市民団体間の交流が充実されなくてはなりません。 市民参加において、これまでは行政←→市民という関係が主でしたが、今後は、市民←→市民の関 係が重視されるべきだと考えます。行政←→市民が個別でやり取りを行い、要望や意見を伝えてい た従来のスタイルから、市民同士でもやり取りを行い意見の交換をすることで、「行政が一部の市 民の意見を聞く」という批判もなくなり、多くの市民の意見を集約することができます。 このような変化ははじめのうちは多くの困難を抱えるかもしれません。しかし、参加する市民が 次第に知識を身に付け、行政-市民間あるいは市民同士での相互理解が深まっていくことで、地方 分権やひいては市民の自主性を高めていくことにつながると考えます。 さらに、もしある市民団体が他で使えるノウハウや技術を持っていたとしても、団体間の交流が ない限りそのノウハウや技術は伝わりません。個別の団体がもっているノウハウや技術を伝播でき ることも、市民団体間の調整を行うことのメリットです。 行政の役割・責任の明確化 ここまで繰り返し述べられているように、市民参加を謳いそれを進めることは、全てを解決する 万能薬というわけではありません。市民参加を進める過程においては、市民だけでは解決すること ができない問題が生まれてくるのは明らかです。その際、行政は全市的な観点から、市民間の利害 調整を行う役割が期待されることになります。 行政が信頼されるためには、行政全体として明確なヴィジョンを持つほかに、各担当部門におい て事業の目的・目標、さらには事業の意思決定における責任の所在を明確に示すことが重要です。 事業の目的・目標を明確に示すことで、行政が行った判断が目的・目標に照らして妥当かどうかを 市民が判断することが可能になります。さらに、意思決定における責任の所在を明確にすることで、 事業に問題があった場合にそれをどこに持ち込めばよいかが分かり、市民としても「たらいまわし にされる」ような不安を取り除くことができると思います。 (7) 市民の役割 市民参加の基本的な意義は、市民が自分たちの周りの問題を、自分たちで積み上げて解決していくこ とにあります。行政が行う事業が複雑化し、行政のキャパシティーも限界に近づいている中で、市民が 行政に依存しきってしまうようなかたちを今後も続けていくことは非常に難しく、市民が自分たちの環 境を良くしていくために、自らできることは自分たちで解決していく姿勢が重要になると考えられます。 その際、市民も、個人個人の権利があるとともに集団としての義務が発生することに自覚的となり、 公共における個人として市民参加を行っていくことが必要となります。 市民の自己研鑽 行政に任せきりではなく、市民が自律的に自分たちの問題を処理していくためには、市民が自分 たち自身の能力を高める努力をしなければなりません。「(6)行政の役割」で述べられているように、 市民の能力を高めるためには行政の協力が重要である一方で、市民自身が自分たちの責任について の自覚を持ち、自己研鑽に努めていく必要があります。市民も市政への参加を求める以上、自分た ちが全くコストを払うことなく行政の責任ばかりを問う姿勢を続けることはできません。行政に何 ができて、何ができないかを理解したうえで、建設的にかかわっていくことによって、市民と行政 が協働を進めることができると考えます。 市民団体の提言機能拡充 市民の中で市民参加を進めるリーダーとして、これからは市民団体の役割がますます重要になっ てくることは間違いありません。特に、今後の市民団体には、行政の事業提案とは必ずしも同じも のではない独自の事業提案を行う機能が要請されるようになると思います。現在でも提言機能をも った市民団体はありますが、現状では対案作りのために十分な資源・能力を持ち合わせているとは 言えず、その役割は必ずしも多くの市民に認知されているとはいえません。市民が主役となるまち づくりを進めるためには、市民団体がそれぞれの得意分野で提言機能を充実させ、行政と協働しな がら実際の事業を進めていくことが必要となります。 ■ 終わりに はじめに述べたことの繰り返しとなりますが、この提案は、行政に対して「あれが欲しい」「こうし て欲しい」ということをいうような単なる要望・要請ではなく、この提案をたたき台として行政と市民 が今後の市民参加のしくみについて一緒に話し合って決めていくことを志向するものです。そのため、 「市民参加のしくみづくりを話し合う会」では、この提案を出して終わりというのではなく、今後の市 民参加のガイドラインの策定を見据えて、この提言に対する行政側からのフィードバックを強く望んで おります。 まずは、市民が長い時間をかけて検討し、創りあげてきたこの提案について、行政側でも十分に検討 していただきたいと思います。技術的な問題の整理など専門的な検討を要する部分も多く、ご苦労もあ るかと思いますが、今後「市民参加プログラム」を協働して実施していくためにも、検討の進捗状況を 適宜ご報告いただく機会を設けていただければ、と思います。 以上       「市民参加のしくみづくりを話し合う会」活動経過 会合月日 参加 者 主な討議内容 第1回 平成14年6月3日(月) 市役所 第8会議室 23人 ○市民参加プログラムとは? ○自己紹介と参加に関する意見 第2回 6月27日(木) たづくり 研修室 19人 ○会の運営方法とスケジュール ○当会の活動・運営に関する意見交換 第3回 7月18日(木) たづくり 学習室 20人 ○学習会・地方分権と協働の制度とまちづくり ・ 協働型の制度とまちづくりの進め方 ・ 最近の実践例 ○出席者によるワークショップ 第4回 8月9日(金) たづくり 学習室 13人 ○会議運営のルールと会の定義について ○市民参加について意見交換(外国の例や参加の三原則) ○今後の会の進め方 第5回 8月29日(木) たづくり 学習室 15人 ○会議運営のルールと会の定義について 2 ○市のこれまでの「市民参加」への取組みについて 第6回 9月17日(火) 市役所 第8会議室 17人 ○「市民参加プログラム策定に関する報告書」内容説明 ○今後の具体的な作業の進め方について 第7回 10月5日(土) たづくり 研修室 16人 ○市民参加についての意見交換 ○会の進め方について 第8回 10月25日(金) たづくり 学習室 17人 ○市民参加の類型,制度等のまとめ資料の説明 ○会の運営について 第9回 11月10日(日) 市民フォーラム室 13人 ○市民参加の類型,制度等のまとめ資料の説明 2 ○市の「情報公開」について(どのような方法でどのように伝 えているのか…) 第10回 12月2日(月) たづくり みんなの広場 13人 ○市の「情報公開」について 2 ○世話人会,世話人の選出 ○市民参加事例研究のためのテーマ選考 第11回12月21日(土) たづくり みんなの広場 13人 ○事例研究 テーマ「みんなの広場について」ワークショップ 実施 第12回 平成15年     1月31日(金) たづくり みんなの広場 11人 ○事例研究 テーマ「みんなの広場について」2 ⇒市民交流担当課長より「広場」ができるまでの経緯説明,ま た現状等の説明を受ける。その後前回のワークショップの続き を行った。 第13回 2月23日(日) たづくり みんなの広場 19人 ○事例研究 テーマ「みんなの広場について」3 ⇒事例から政策決定のプロセスについて検証。ワークショップ 実施。 第14回 3月13日(木) たづくり みんなの広場 13人 ○政策決定までの各プロセスごとの市民参加の場面と課題の検 証。 ○「みんなの広場」について提案内容の検討。 第15回 4月15日(月) たづくり みんなの広場 13人 ○政策決定までの各プロセスごとの市民参加の場面と課題の検 証。 ○「みんなの広場」について提案内容の検討。 第16回 4月30日(水) たづくり みんなの広場 12人 ○「みんなの広場」の提案書を市民交流係へ提出 ○市民参加のしくみ・ガイドラインの作成に向けて 第17回 5月17日(土) たづくり みんなの広場 11人 ○市民参加のしくみ・ガイドラインの作成に向けて 第18回 6月8日(日) たづくり みんなの広場 12人 ○市民参加のしくみ・ガイドラインの作成に向けて ○市長への提言内容の検討 第19回 6月21日(土) たづくり みんなの広場 8人 ○市長への提言内容の検討 他 第20回 7月1日(火) たづくり みんなの広場 15人 ○市長への提言内容の検討 他 第21回 7月12日(土) たづくり 301会議室 9人 ○市長への提言内容の検討 他 ※世話人会(メンバー7名)実施日 14年  12/18(水) 15年  1/18(土)  2/11(火)  3/2(日)  3/29(土)  4/20(日)  5/11(日)  6/3(火)  7/21(祭) ※会議(世話人会含む)は平日の場合は午後7時~9時,土・日・祭日の場合は午後1時 半~3時半にそれぞれ開催した。 -1-