(令和4年度答申第4号) 答 申  1 審査会の結論  処分庁が,令和3年10月22日付け3調都街発第2050001号で「東京外環沿線都区市部長級打合せ議事録」を全部公開決定とした処分は,妥当である。 2 本件の経緯 年月日  経緯 令和3年10月 1日  審査請求人は,調布市情報公開条例(平成11年調布市条例第19号。以下「本条例」という。)第6条第1項の規定により,市政情報公開請求書を処分庁に提出し,「調布市(都市整備部,環境部,総合防災安全課)が保有する東京外環道事業に関する,2021年9月18日から10月1日の期間に調布市が作成したり,外部から入手したり,外部に提供した,文書,写真,Eメール等電子データを含む情報一式。(原則電子データでの交付を)」の公開請求(以下「本件請求」という。)を行った。  処分庁は,同日付けで本件市政情報公開請求書(以下「本件請求書」という。)を受理した。   同年10月15日  処分庁は,本件請求について,本条例第12条第2項の規定により公開決定等期間延長の通知を行った。     同年10月22日  処分庁は,本件請求について,本条例第11条第1項の規定により市政情報公開決定処分(以下「本件処分」という。)を行った。 令和4年 1月20日  審査請求人は,本件処分を不服とし,審査請求書(以下「本件審査請求書」という。)を審査庁に提出し,行政不服審査法(平成26年法律第 68号。以下「法」という。)第2条の規定により,審査請求(以下「本件審査請求」という。)を行った。  審査庁は,同日付けで本件審査請求書を受理した。   同年 2月22日  処分庁は,法第29条の規定により,弁明書(以下「本件弁明書」という。)及び証拠物件等を審査庁に提出した。  審査庁は,同日付けで本件弁明書及び証拠物件等を受理した。   同年 3月25日  審査請求人は,法第30条の規定により,反論書(以下「本件反論書」という。)を審査庁に提出した。  審査庁は,同日付けで本件反論書を受理した。   同年 6月21日  審査請求人からの申出により,法第31条の規定に基づく口頭意見陳述(以下,「本件口頭意見陳述」という。)を実施した。     同年 6月28日  審査請求人から「不服審査請求令和3年度第9号事件についての意見書」と題する補充的書面が提出された。  審査庁は,同日付けで当該書面を受理した。   同年 7月19日  審査庁は,期限内に処分庁から補充的書面の提出がなかったことから審理を終結し,本条例第19条の2第1項の規定により,調布市情報公開審査会(以下「当審査会」という。)に諮問(以下「本件諮問」という。)を行い,諮問書とともに本件審査請求書,本件弁明書及び本件反論書の写し(以下「本件諮問書等」という。)を当審査会に提出した。  当審査会は,同日付けで本件諮問書等を受理した。 3 本件審査請求の内容 (1) 本件審査請求の趣旨  調布市長が審査請求人に対し行った本件処分を取り消すとの採決を求める。 (2) 本件審査請求の理由  審査請求人の本件審査請求書,本件口頭意見陳述,補充的書面及び本条例第24条に基づく口頭での意見陳述における主張はおおむね以下のとおりである。   ア 文書の特定について  審査請求人が,対象となる期間を違え,本件請求と同様の件名で行ってきた市政情報公開請求において,公開された電子メールはほとんどなく,公開された電子メール以外の文書も非常に少ないことから,処分庁において請求に該当する文書のすべてを特定し,処分の決定が行われていたか疑わしい。処分庁には,外環事業者や近隣自治体,市民等と日々やりとりしている情報があって然るべきであり,本件処分により公開された文書以外にも公開すべき文書が存在するはずである。  また,処分庁は,審査請求人が本件請求と同様の件名で行ってきた市政情報公開請求において,個人から寄せられた意見等は請求の対象としない旨の合意がなされていたと主張しているが,個人から寄せられた意見等を請求の対象から除いたつもりはなく,仮にそのような発言をしていたとしても,それは日程調整等の非常に些末な内容までは対象としないという意図である。  従って,大学名誉教授から調布市長宛に送付されている令和3年9月21日付「東京外環道・調布市トンネル陥没事故について」と題する文書及び当該文書に係る一連の記録は対象とされるはずである。この文書は,権威ある専門家が陥没事故に関する意見を調布市長宛に提出したものであり,重要な情報として市民や市議会に広く情報提供すべき性質のものである。  また,令和3年度第4回調布市個人情報保護審査会において配付された資料4-2「外環事業における令和2年度以降の市民(個人・団体)からの問合せ,相談及び要望等(以下,「資料4-2」という。)」に記載された文書も,今まで本件請求と同様の件名で行ってきた市政情報公開請求の対象となるべきものである。  さらに,定例的に行われている市長と外環事業者との面談に関する資料及び記録,個人情報をマスキングしていない市政情報公開請求書を関係事業者に送っていた事案において関係事業者宛に送信された電子メールも同様に対象となるはずである。   イ 探索の範囲について  処分庁は,本件審査請求後に改めて本件請求の対象となる文書について探索したが本件処分の対象となった文書以外に該当するものは存在しなかった旨主張するが,処分庁は電子メールを短期間で削除するという運用をしていることから,本件処分から3箇月以上経過した時点において探索し該当する文書が存在しなかったとしても,本件処分時において対象文書の探索・特定が適切になされたとはいえない。  また,本件処分及び本件審査請求において対象文書を探索する範囲が意図的に狭められている疑いがある。   ウ 公文書管理について  処分庁からの説明によると,電子メールについては「メールサーバの容量に限りがあるため,すぐに削除している」という取扱いをしており,公文書管理上問題がある。電子メールも公文書に該当するのだから,公文書管理上の保存年限が1年未満であったとしても,情報公開請求や審査請求を含む関係事務が終わっていないものまでも削除していることは規定等に反している。  情報公開と文書管理は車の両輪であり,文書を適切に記録し,公文書として保存しておかなければ,適切に情報提供・情報公開を行うことはできないのであって,文書管理規定等に反し適切に保存していないことを以って「存在しないものは存在しない」ということは許されないものである。 4 処分庁による本件弁明書等の趣旨   本件弁明書等による処分庁の主張を要約すると,おおむね以下のとおりである。 (1) 弁明の趣旨   「本件審査請求を棄却する」との裁決を求める。 (2) 本件審査請求に対する主張要旨  本件審査請求は,本件処分にかかる文書の特定が不当なものとして処分を取り消すよう求めていることから,次のとおり弁明する。   ア 文書の特定について  審査請求人からは,現在に至るまで約10年にわたり,定期的かつ継続的に同様の件名で市政情報公開請求を受けている。それらの請求を受けてきた中で,対象文書の特定をするために審査請求人に「どういう文書が必要か」という確認をしてきた経緯がある。その経緯の中で,審査請求人が希望している情報は「東京外環道事業のうち特に事業主体である国土交通省,東日本高速道路株式会社及び中日本高速道路株式会社の3事業者(以下「3事業者」という。)とのやりとり,または他の自治体とのやりとりに関する情報であり,個人から寄せられた意見等については請求の対象から除く」という調整が図られていると認識してきた。本件請求受付時に改めて確認はしていないものの,本件処分においてもその認識の下で対象となる文書を特定している。  また,東京外環道事業を起因とする陥没事故直後には市民から処分庁に対し数多くの問い合わせがあったことは報道等からも容易に推察できるところであるが,本件処分にかかる資料の公開時はもちろん,令和3年11月に関係事案の審査請求書が出されるまでの間,審査請求人が本件請求と同様の件名でなされた市政情報公開請求に対して公開してきた資料について「個人から寄せられた意見等が含まれていないのではないか」というような確認はなかったことから,前述の認識は審査請求人と一致しているものと考えていた。  審査請求人の主張する「東京外環道・調布市トンネル陥没事故について」と題する文書は,発信者に大学名誉教授という肩書きが付されてはいるものの,あくまでも個人から寄せられた意見であると判断したことから,本件請求の対象文書とはしていない。  資料4-2は,資料名のとおり,市民(個人・団体)からの問合せ,相談及び要望等の一覧であり,この一覧に掲載されている文書は本件請求の対象となるものではないと解していることから,審査請求人が本件審査請求書等で指摘している文書は本件請求の対象としていない。また,市長が外環事業者と面談した際の資料については,本件審査請求を受けて再度確認を行ったが,面談時に外環事業者から市へ提出された資料は存在せず,面談後の記録も作成していないため存在しない。さらに,個人情報をマスキングしていない市政情報公開請求書を関係事業者に送っていた事案において関係事業者宛に送信された電子メールは,メールサーバから削除されており確認することはできない。   イ 探索の範囲について  文書の特定にかかる探索の範囲については,執務室内の行政文書を保管している場所やコンピュータ上の電子ファイル等を確認している。本件請求は,請求の件名又は内容に「調布市(都市整備部,環境部,総合防災安全課)が保有する」と指定があることから,指定部署が保管・保有する文書を探索範囲とし,部署内のパソコンや共有サーバを探索しているほか,組織共用文書については部次長職のパソコンも探索の対象としており,探索の範囲に不適切な点はない。また,本件審査請求がなされた以降においても,対象となる文書の存否を確認するために執務室等の行政文書を保管する場所及びコンピュータ上の電子ファイルを改めて探索したが,本件処分において対象となったものを除き,対象とすべき文書は見つけられなかった。   ウ 公文書管理について  電子メールのメールボックスは,データを長期的に保存するための機能としてではなく,通信手段としての事務処理を行うための一時的な作業領域として運用をしている。このため,メールボックスの容量が限度を超えた場合には,電子メールの送信ができなくなることから,保存・管理する電子メールを選別し,処理が完了した電子メールは随時削除するなどの運用をしている。  電子メール自体の保存期間については,内容や性質に応じて紙文書と同等に扱われるべきものであると認識しているが,本件請求時においては明確なルールはなかった。令和4年8月に電子メールの取扱い基準が示されたことから,以降はその基準に則った対応を行っている。 5 審査会の判断  当審査会は,審査請求人の本件審査請求書,本件反論書及び本件口頭意見陳述等における主張並びに処分庁の本件弁明書及び理由説明における主張を具体的に検討した結果,以下のように判断する。 (1) 請求の範囲について  本件審査請求では,特定の文書が請求の対象とされるべきであったかという文書の特定について争点となっていることから,請求の範囲について検討する。  まず,本条例第6条では市政情報の公開の請求の方法を定めており,同条第2項第2号に市政情報公開請求書に記載する必要がある事項として「公開を請求しようとする市政情報を特定するために必要な事項」と規定していることから,請求の範囲は,市政情報公開請求書に記載された内容に基づき判断するものである。  次に,市政情報公開請求は,特定の事件関係者に限らず請求できる制度であるから,基本的には,先入観を持たずに通常人の読解力を基準として市政情報公開請求書の記載内容を解釈すべきであって,市政情報公開請求を受けた実施機関で独自に市政情報公開請求書を理解してそこに特定の意味付けを行うことは適当ではない。逆に,文書の存在を応答したことに対して,市政情報公開請求者が独自の解釈に基づく独自の意味付けをしたとしても,それをもって当該請求者の当該解釈ないし意味付けが直ちに是認されるものでもない。  本件の請求する市政情報の件名又は内容は,「調布市(都市整備部,環境部,総合防災安全課)が保有する東京外環道事業に関する,2021年9月18日から10月1日の期間に調布市が作成したり,外部から入手したり,外部に提供した,文書,写真,Eメール等電子データを含む情報一式。(原則電子データでの交付を)」である。前述のとおり,市政情報公開請求書の内容は通常人の読解力を基準として解釈すべきであることから,「事業に関する情報」といった場合,「事業自体に関する情報」と解するのが自然であり,「事業自体に関する情報」とは,一般的に事業の計画や進捗,協議,意思決定,結果等,事業の実施に関する情報を指すものと考えられ,事業に付随して実施機関に寄せられた個人からの相談や意見等までをも当然に含むものと解することはできない。  また,審査請求人と処分庁の主張は食い違っているものの,請求日時点において本件請求が事業に付随して実施機関に寄せられた個人からの相談や意見等までを含むものであるという意味付けのされた請求であったことを推認するような事実を認めることはできなかった。  以上により,本件請求における請求の範囲は,「東京外環道事業自体に関する情報」であり,事業に付随して実施機関に寄せられた個人からの相談や意見等を含むものではないと判断する。 (2) 本件請求にかかる文書の特定について  本件処分において全部公開された文書は,「東京外環沿線都区市部長級打合せ議事録」であり,その内容は,東京外環道事業に関係する地方自治体と3事業者との打合せ内容をまとめたものであり,その性質は「東京外環道事業自体に関する情報」といえる。  他方,審査請求人が本件反論書等で本件請求の対象文書であると主張している文書は,「東京外環道・調布市トンネル陥没事故について」と題された大学名誉教授から処分庁に寄せられた意見書であり,専門性の高い内容である。しかし,発信者名に肩書が付されていることは,意見内容の信頼性を高めるひとつの要素ではあるが,個人から処分庁に寄せられた他の意見と取扱いを殊にする根拠にはならず,事業の計画や進捗,協議,意思決定,結果等,事業の実施に関する情報と解することはできないことから,「東京外環道事業自体に関する情報」又はそれに準ずる情報とはいえず,本件請求の対象であったと認めることはできない。  また,本件請求時における電子メールの運用や文書の特定にかかる探索の範囲に関する処分庁の説明等を踏まえると,前記の文書のほかに本件請求に該当する文書は保有していないとする処分庁の説明に,特段不自然,不合理な点があるとはいえず,これを覆すに足りる事情は認められない。  よって,本件請求にかかる文書の特定は,妥当である。 (3) 公文書管理について  本件諮問は本条例第19条の2第1項に基づきなされた公開決定等の処分に関する審査請求に係るものであり,当審査会における審査は処分庁の行った本件処分が妥当であったか否かを審査するものである。電子メールの取扱い等の市における公文書管理に関する事項は,調布市文書管理規則(平成16年調布市規則第12号)等において規定されており,その内容や運用については行政において検討されるべきものである。 (4) その他 その他,審査請求人は縷々主張しているが,当審査会の判断に影響を及ぼすものではない。  (5) 結論 よって,「1 審査会の結論」のとおり判断する。 (6) 市政情報公開請求における個人から実施機関に寄せられた相談や意見等の取扱いについて  本件審査請求に対する当審査会の結論は以上のとおりであり,その判断に影響を及ぼすものではないが,審査請求人は,本件請求には東京外環道事業に附随して個人から実施機関に寄せられた意見等も対象に含んでいたと主張していることから,事業に附随して個人から実施機関に寄せられた相談や意見等の市政情報公開請求における取扱いについて,当審査会は以下のとおり整理する。 ア 市政情報公開請求と個人情報の保護  本条例第7条本文では「実施機関は,公開請求があったときは,公開請求に係る市政情報に次の各号のいずれかに該当する情報(以下「非公開情報」という。)が記載されている場合を除き,当該公開請求者に対し,当該市政情報を公開しなければならない。」とし,原則公開の基本的考え方を規定している。  他方,本条例第3条第2項では「実施機関は,同条例の解釈及び運用に当たっては,個人の尊厳を守るため,個人に関する情報がみだりに公開されることのないよう最大限の配慮をしなければならない。」と規定しており,公開を原則とする情報公開制度の下においても,個人に関する情報は最大限に保護されるべきであり,正当な理由なく公にされてはならないことを明示したものである。また,本条例第7条第2号では「個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって,特定の個人が識別され,又は他の情報と照合することにより識別することができることとなるもの。」と規定し,「個人に関する情報」は非公開情報であると定めている。 イ 市政情報公開請求における個人から実施機関に寄せられた相談や意見等の取扱いについて  個人の生活に関する相談や市の事務事業や制度への要望等の市政に対する意見に関する情報であっても,「実施機関の職員が職務上作成し,又は取得した文書」等である場合は,本条例第2条第2号で規定する「市政情報」に該当する。  しかしながら,地方公務員法第34条第1項において「職員は,職務上知り得た秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後も,また,同様とする。」と規定され,地方公務員には守秘義務が課せられていることを前提として,個人の生活に関する相談は,相談者と実施機関との信頼関係に基づきなされているものであり,相談者は,その相談内容の全部又は一部が情報公開請求を通じて第三者に公開されるということを想定しているとは考え難い。また,個人の生活に関する相談は,相談者の家庭状況に紐づくプライバシーに関わる情報や,その内容から個人が特定されるおそれがある。これらの情報は本条例第7条第2号に規定する「個人に関する情報」に該当し,本条例第7条第2号アからウで規定する例外事項に該当する場合を除き,情報公開請求において公開されるものではない。  他方,市政に対する意見は,内容から個人を特定される可能性がない場合も想定され,その場合には情報公開請求において公開されるものと考えられるが,当該意見は意見者の思想や心情を反映したものとも考えられることからその取扱いは慎重に判断されるべきである。  実施機関には,多種多様な相談や意見等が日々寄せられていることは容易に想像できる。それらの意見等が情報公開請求の範囲に含まれる市政情報であるかの選別や公開等の決定は,その市政情報を保有する実施機関が本条例に則り行うものであり,その過程で「個人の生活に関わる相談」なのか,「市政に対する意見」なのか,事案に応じた性質の見極めを行う必要がある。実施機関においては,情報公開請求の公開の原則を尊重しつつも個人のプライバシーに関する情報に十分な配慮を行うべきであり,情報公開請求における個人から寄せられた相談や意見等の取扱いについては個別具体的に,慎重な判断が求められるものである。 6 当審査会の処理経過   当審査会は,本件諮問について以下のように審査を行った。 年月日 処理経過 令和4年 7月19日 審査庁から提出された本件諮問書等を受理   同年 9月29日 情報公開審査会(令和4年度第4回) 本条例第24条の規定による審査請求人の口頭での意見陳述, 処分庁の事情聴取   同年11月17日 情報公開審査会(令和4年度第5回) 審査 令和5年 2月 6日 情報公開審査会(令和4年度第6回) 審査 7 調布市情報公開審査会委員 職名 氏名 備考 会長 草川 健 弁護士 副会長 井上 寛 弁護士 委員 稲益 和子 弁護士 委員 佐藤 惠子 市民 ※佐藤委員は,令和4年10月1日に任命を受け,令和4年度第5回情報公開審査会より審議に加わった。 2