5-1 福祉にフィットしない方たちの次の選択肢を考えるワーキング 報告書 (1) 目的    既存の福祉サービスに合わず行き場がなく安心できる居場所がない障害のある方を対象に,地域での支援の在り方や新たな地域資源について協議し,アイデアを創出する。    障害特性,当事者本人の意向,触法など様々な理由で就労継続B型など福祉的就労が合わず企業就労も難しいような,いわゆる狭間の障害当事者を対象に日中活動等の次の選択肢を検討する。 (2) ワーキングにおいて取り組む主な内容について    様々な分野及びワーキングメンバーから意見を集め,福祉に合わない障害当事者の現状と課題を確認する。また,福祉サービスを含め,広く地域の社会資源利用について可能性を検討し,支援の体制を想定する。 (3) ワーキンググループメンバー(敬称略)  座長 丸山 晃 (立教大学 コミュニティ福祉研究所 研究員)     池田 怜生(社会福祉法人調布市社会福祉協議会 市民活動支援センター)     押澤 厚志(社会福祉法人調布市社会福祉協議会 こころの健康支援センター)     和泉 怜実(社会福祉法人調布市社会福祉協議会 子ども・若者総合支援事業 ここあ)     矢辺 良子(調布狛江地区保護司会)     仁田 典子(特定非営利活動法人調布心身障害児・者親の会)     福田 信介(社会福祉法人調布市社会福祉事業団 調布市障害者地域生活・就労支援センターちょうふだぞう) (4) 事務局    調布市障害者地域生活・就労支援センターちょうふだぞう    調布市障害福祉課 (5) 令和4年度のワーキングにおける成果目標    福祉サービスに合わないなど,望まない障害のある方の現状を把握し,課題確認及び整理を行い,支援の方向性を検討する。    ~第1回ワーキング~ 1 開催日   令和4年8月8日(月) 午後2時30分から4時30分 2 開催場所  ちょうふだぞう 活動室 3 出席者   委員6名 事務局8名 オブザーバー1名 4 小テーマ  課題の共有と意見交換  (内容)既存の福祉サービスに合わず,安心できる居場所がない障害のある方を支援している中で感じている課題を共有した。その中でどのような場所があると良いのか意見交換を行い,今後について検討した。 5 主な意見 ・福祉にフィットしない方は本人に障害の自己理解がなく,過去の失敗にとらわれているため情報提供しても意欲がない方が多い。 ・困りごとを共有したり,情報を得たり,体験する場がなく,横のつながりがない。 ・ピアカウンセラーを育成し,もっと活躍する場が増えると良い。 ・社会参加するにもハードルがかなり高く,社会的孤立につながりやすい。 ・就労していた方が年を重ねる中でできないことが増え,就労継続ができないこともある。 ・障害者雇用では長時間勤務を求められるので就労することが難しく,就労継続支援B型では物足りない人が増えている。 ・短時間労働できるところがあるとマッチする人も多くいる。 ・特別支援学校を卒業後就労し,すぐに退職してしまう人も多い。そのような人達が自分をゆっくり学び直したり,考えたりすることができる場が欲しい。 ・保護観察の人は国の仕組みができており,手厚い支援がある。障害のある人も保護司のように身近な存在で支援してくれたり,励ましてくれたりする人がいるとよい。また,職場体験できる場所・仕組みが必要ではないか。 ・両親の相談先,幼少期から続けて支援してくれるところ,生活の困り感などを気軽に相談できる場所があると良い。 ・失敗してもリカバリーできる保護的な職業体験が欲しい。 ・行き場のない人はボランティアを勧められることも多い。しかし,ボランティアは自主性が求められるため,受動的な人にはマッチングが難しい。 ・ボランティアや誰でもいられる場でも,周囲の方々からの障害特性の理解や共感が不足していると馴染めなくなってしまう。 ・潜在的なニーズを抱えた,埋もれている人をキャッチできると良い。 ・多様性を住民が気付き・考えられる場所が必要。 ・作業や活動をしても,しなくてもよいハードルの低い居場所が必要。 ・横断的,専門的に相談でき,契約など手続きのいらない相談先だと利用しやすいのではないか。 ・保護司は基本的に月2回面談。未成年は20歳まで,執行猶予の方は猶予が明けるまで,服役後の人は定められた期間が担当となる。 ・ボランティアではなく,あるがままの自分を認めてもらえる社会体験が必要。 6 まとめ ・失敗してもやり直せる,前向きな社会体験ができる場所が必要だと思われる。また,その体験を今後に生かせる仕組みが重要。支援のあり様も検討していけるとよい。 ・次回ワーキングでは各委員に事前に記載してもらった「地域資源確認シート」を基に各関係機関の役割の強みと弱みを把握し必要な社会資源を検討する。 ・また,あがった意見から自己の障害等を振り返りや学ぶ機会や相談ができる窓口,就労の体験ができる場や,何もしなくて良い「居場所」が必要ではと共通のキーワードがでてきた。これらの点を中心に課題やニーズを整理していく。  ~第2回ワーキング~ 1 開催日   令和4年10月25日(火) 午後1時30分から3時30分 2 開催場所  調布市総合福祉センター 6階 3 出席者   委員7名 事務局7名 オブザーバー1名 4 小テーマ  地域資源の共有と意見交換  (内容)ワーキング前に各委員に提出してもらった地域資源調査シートを元に意見交換を行い,現在のニーズについて検討した。 5 主な意見 ・居場所事業は日によって雰囲気や混雑具合も異なるため,「何をしてもよい」ということがハードルになることもある。 ・学習支援・相談事業は家族からの相談が多い。障害のある中学生の家族の相談先は少ないよう。 ・学習支援の要件外の人は問合せ時に伝えており,相談は少ない。ただ断るだけではなく相談事業の紹介はしている。相談で関わる際は子ども発達センターの関わりもあるとよいと感じている。 ・BBS会や更生保護女性会,協力雇用主など協力機関も多い。 ・農福連携は再犯率が低いが,満期で出所する人は孤独なことが多く,再犯率も高い。 ・保護司との面談に来ない場合は周囲に知られないよう手紙を出すこともあるが音信不通となってしまうこともある。 ・障害があると思われるが手帳を取得していない人も多い。 ・障害のある犯罪を犯した人の支援機関は現状ない。 ・刑務所内での就労支援はない。出所後から就労に向かう流れだが,社会訓練が必要だと感じる。 ・親の会では障害受容の支援として家族同士の話し合いやペアレントメンターなどを行い,先を見通せるようにすることで共に話し合い共感しあっている。 ・あくろすでは65歳以上のボランティアが多く,現役世代の参加が課題となっている。 ・地域に多様な入り口を作りたいが,今ある資源にどのように働きかけるとよいかがわからない。 ・ボランティアと施設側の関わり方が難しい。 ・現在しごと財団でソーシャルファームの取り組みを始めている。今回のワーキングに参考となるのではないか。 6 まとめ ・条件の緩やかな働く先や,孤立を防ぐ居場所などが求められている。 ・次回以降,新たな雇用形態のソーシャルファーム含めゲストスピーカーを迎えて情報収集しながら今後のワーキングの方向性を検討していく。  ~第3回ワーキング~ 1 開催日   令和4年12月16日(金) 午後2時から4時 2 開催場所  調布市市民プラザあくろす 3階あくろすホール 3 出席者   委員7名 事務局6名 4 小テーマ  ソーシャルファームの取組説明と意見交換  (内容)新たな雇用形態の「ソーシャルファーム」について,しごと財団の担当者をゲストスピーカーとして招き,話を聞いた。 5 主な意見 ・選択肢のひとつとしてはとても良い。 ・補助金が5年間となっているため,その後の展開が気になった。 ・期待は高まったが,まだ間口はとても狭いと感じた。 ・企業側のメリットを伝え,紹介できるようになりたい。 ・ソーシャルファームとの繋がりがないと紹介も難しいと思った。 ・障害者雇用に向けた中間施設になりにくいと感じた。トラブルについても聞いてみたい。 ・福祉的な支援を受けるために精神科通院が必要な場合,通院を理由に断る人や良い求人があっても希望しない人もいる。そのような人が使えると良い。 ・既存の施設に併設している所が多く,一施設としてフォローなしでやっていけるのか心配。 ・フィットしない人の第1歩としてのハードルはまだ高く,ワーキングの趣旨としては難しいと感じた。 ・突出した能力を持つフィットしない人にはソーシャルファームは適している。 ・ソーシャルファームが増えていくことが大切。増えた上で調布のことを考えてもよいのではないか。 ・調布市で実現するのであれば,市内の企業に直接声をかけて協力を募るとよい。 ・障害者雇用率に算定されない人がソーシャルファームでは対象になることで働く場の幅が広がる。 ・補助金がある5年間に他のことを考えられ,一般の企業としては有益な補助。 ・作業所と企業の間ができたことは大きい。 ・港区では週2時間の超短時間雇用もある。遠隔操作の分身ロボットを利用し,自宅で寝たきり等の状態でも店舗で短時間就労できる。 ・コミュニティカフェという誰が来ても良い場所もある。居場所の選択肢になるかもしれない 6 まとめ ・新たな雇用形態「ソーシャルファーム」についてワーキングを通して理解を深めた。 ・ソーシャルファームは,一般的な企業と同様に自律的な経済活動を行いながら,就労に様々な理由で困難を抱える方が,必要なサポートを受け,他の従業員と共に働いている社会的企業であることがわかった。そのため福祉にフィットしない方の就労体験の場になる可能性も見出せた。  ~第4回ワーキング~ 1 開催日   令和5年2月27日(金) 午後2時30分から5時 2 開催場所  POSTO見学~ちょうふだぞう 活動室 3 出席者   委員7名 事務局6名 4 小テーマ  コミュニティカフェPOSTO(ポスト)見学と来年度に向けて  (内容)POSTO(ポスト)を見学し,代表者三名のうちの一名に質疑応答を行った。見学後,ちょうふだぞうにて振り返りと府中市にできたソーシャルファームの見学報告,来年度に向けた意見交換を行った。   ※ POSTO(ポスト)とはイタリア語で「場所」という意味で,2021年3月に設立された「誰でも特に理由がなくとも立ち寄り,過ごせる場所」をコンセプトにした仙川駅近くにあるコミュニティカフェのこと 5 主な意見 ◎POSTO(ポスト)について ・居場所の選択肢の一つとなる。話をしたい場合などは自らの発信も必要であり,なじむにはある程度の我の強さが必要。 ・独自の色があることで合う人も合わない人もいるが,それが良い。 ・代表者がとても自然体で楽しそうに運営していることが印象的。 ・面白そうという理由でPOSTOはイベントなどいろいろと始めており,フィットしない人たちには面白そうと興味を持てるものがないこともフィットしない理由の一因なのかもしれないと思った。 ・代表の3名と友人になりたいと思う人だけが残り,その人の居場所になっている。その作り方が良いと思った。 ・外から見ると,一見何をしているのかわからず,入りにくいという感想も多い。だが,その敷居の高さも必要。敷居が低すぎると,いろいろな人が来すぎてしまう。 ・ここあの居場所事業はなるべく特色を出さないようにしており,目的が全く違う居場所だと感じた。 ・何かを始める際に枠を考えてしまいがちだが,枠がないことが印象的。 ・障害のあるなしなど配慮しすぎず,対人トラブルも「学校のクラスの揉め事」と捉え,介入しすぎない考えも素敵だと思ったが,フィットしない人たちのことを考えると難しいとも感じた。 ・支援者非支援者という関係性や障害というレッテルのない「誰でもない自分」になれる場所も必要。 ・コミュニティカフェにはたくさんの正解があるので,他の場所も見たいと思った。 ◎府中市のソーシャルファームについて ・地域にある人,モノ,場所を生かす事業を行いたいというコンセプトで開始。 ・ファーム,カフェ,ジャム製造を行っており,現在は4名がファームに在籍。 ・来られる時に来て働くというゆるい勤務形態で,居場所になってほしいという考えもある。 ・福祉施設としてではなく,デザイナーを入れておしゃれなカフェという地域の一施設として成り立たせている。 ・ニーズは高く,少しずつ問い合わせも増えている。 ・運営者が地域でネットワークを沢山持っており,ボランティアや協力してくれる人が多くいる。 ◎今後について ・福祉にフィットしない人をサポートが必要だけれども支援が難しい人とイメージしていたが,その場所に合わなかったり,選択肢が少ないだけなのかもしれないと思った。 ・これまでつながっていなかったところや,協力してもらえるマインドを持ったところに働きかけていき,具体的に何かできると良いと思う。 ・制度などに当てはめるのではなく,参加できるための工夫の仕方,互いに楽しめることを広く考えていきたいと思った。 ・調布にある力を掘り起こし,やりたいと思っている人たちへのコーディネートをしてネットワークを深められると良い。 ・地域の中でできることはないか考えている企業もある。そのようなところとつながり,就業体験など見守りのある挑戦が増えると良い。 ・市内の企業などつながれる場所や各福祉サービス事業所の活動内容を把握して必要時には紹介できると良い。POSTO(ポスト)のように個性的なところが合う人もいるので地域の資源を把握することも大切。 ・イベントの手伝いや気になるものであれば楽しく参加できる人もいる。そのような機会の提供ができると良い。 6 まとめ ・今年度は学習編として地域の資源や新しい仕組みについて情報収集や検討を行い,福祉にフィットしない人がいろいろなところにいることを学んだ。 ・来年度は1年間かけてネットワークの構築を行うのか,新しい仕組みを作るのかも含め,どのようにすれば選択肢となるものが提案できるのかを検討していく。 ■ これまでの到達点  第2回では第1回ワーキングで挙がった課題からキーワードを抽出し整理した。共通した課題として4つの観点「相談」・「居場所」・「体験」・「自己理解(学習)」が挙げられた。「体験」は就労やボランティア等のできる場所で,「自己理解(学習)」は自身の障害特性のことや生活上の困難について理解を深める場所の必要である。こうした観点から参加した委員の所属している機関から社会資源について報告してもらいネットワーク形成を図った。  第3回ワーキングでは,海外で実践されている「ソーシャルファーム」について理解を深めた。東京都が行っているソーシャルファームの制度や実際の形態についてしごと財団の担当者から学んだ。  第4回では新しい社会資源の一つ「コミュニティカフェ」を見学し,居場所の在り方の例について学んだ。1~3回のワーキングを経て委員と意見交換し,来年度の方向性を協議した。 ■ 今後の展望と課題  就労する場や「体験」という点では新たな雇用形態である「ソーシャルファーム」が福祉サービスと企業就労の中間的な場になる可能性が高い。一方でまだ始まったばかりの制度であり実際の課題について把握していく必要がある。  また「コミュニティカフェ」という地域で人と人を結ぶ居場所や地域社会の場についての情報提供があり,第4回で実際の運営状況について学んだ。  次年度は「ソーシャルファーム」,「コミュニティカフェ」の実践について企業や事業所にヒアリング等を行いどのような形で福祉にフィットしない障害のある方への支援に導入していけるのかを検討していく。