陳情文書表(令和5年8月28日受理) 受理番号 陳情第11号 件名 政府に対して福島第一原発のALPS処理水の海洋放出を止めることを求める意見書の提出についての陳情 提出者の住所・氏名 (注)非公開情報 付託委員会 建設委員会 (注)原文のまま記載 (趣旨) 私たち高木仁三郎記念ちょうふ市民放射能測定室は、2011年の福島原発事故後、食卓に上る食品や身近な土壌等環境試料を自ら測定しようと立ち上がった市民放射能測定施設です。現在も続いている放射性物質の大量放出に加え、さらに環境を汚染する東京電力福島第一原子力発電所の多核種除去施設ALPS処理水の海洋放出を中止して、海洋投棄という方針を撤回するよう日本政府に対して意見書を提出することを陳情します。 日本政府やIAEA(国際原子力機関)は、トリチウムを含む汚染水を希釈したALPS処理水の海洋放出は、科学的根拠に基づき、国際安全規格基準を満たすとしています。しかし、基準をクリアするために薄めて投棄するという手法は、1970年代に横行した公害企業と同様の所業で新たな環境汚染行為です。海洋放出について、日本政府やIAEAが依拠する基準は、原子力施設の正常運転時の基準です。ところが、2011年に東京電力が引き起こした福島第一原発の3基の原子炉のメルトダウンという最重大事故から12年経った今日も、その核燃料デブリの状況さえも掴めず、廃炉の道筋は全く見えません。福島第一原発からはすでに多種多様で大量の放射性核種が放出されています。これ以上の地球上に生を営むものへの人工放射性物質の負荷は許されません。 1895年にレントゲンがX線を発見して以来、私たちは放射線から多くの恩恵も受けてきましたが、一方で低線量被ばくによる健康被害リスクや、広島・長崎の原爆投下に見るような大量殺戮も受けてきました。放射線防護の歴史はそのような人類と放射線のかかわりの中で、できる限り放射線被ばくのリスクを少なくすることを目指してきました。放射線防護に関する民間の国際学術組織であるICRP(国際放射線防護委員会)は、低線量の放射線被ばくによる確率的影響については、健康被害リスクに閾(しきい)値はないという考えに立っています。つまり低線量だから安全だとか、微量だから自然の体系にとっては無視できる範囲であるとか、そのような放射線量のリスクには数量のしきいはないのです。それらの科学的根拠に基づいて、これ以上の余分な被ばくを避けるために、日本政府・東京電力が令和5年8月24日に開始したトリチウム等が含まれるALPS処理水の海洋投棄は行われるべきではありませんでした。 トリチウム等を含むALPS処理水の海洋投棄については、国内外から反対の意見表明がされています。経済的にも多大なる影響を受けることが予想される漁民や流通・加工などに関わる水産関係者の方々の声を無視しての強行は許されません。政府は風評対策を中心として水産業者の方々の理解を得ようとしていますが、処理水投棄の影響は風評被害ではありません。水産業者にも私たち消費者にも、原発事故による放射能の環境投棄は、健康や経済問題等に直結する実害です。 福島第一原発構内には約64ヘクタールの空き地が残っていて、汚染水タンクの増設は可能です。この空き地に関して東電と政府は、事故直後に発表された30~40年廃炉ロードマップの遂行上必要だとしています。しかし廃炉に向けての核燃料デブリ回収のめども立たず、ひたすら冷却水を注入し続けて高濃度汚染水を生み出し、その処理のために薄めて海洋投棄をするという安直な方法を選択する現状から見て、30~40年廃炉ロードマップは実現不可能であるといわざるをえません。日本原子力学会の福島廃炉検討委員会の報告(2020年)では、廃炉に必要な期間を100~300年としています。まずはこれまで12年間も止めることができていない経路不明な汚染水の漏洩を止めるなど、汚染水の発生量を可能な限り減らす本気の努力こそが必要です。これまでより放射能の環境への放出を減らすことが日本国内だけでなく地球規模の問題としても、事故を引き起こした責任企業としての最重要の責務です。 私たちちょうふ市民放射能測定室は、平成27年に調布市の環境政策課との合意のもとで市内の44か所の公園の土壌放射能測定を行いました。また子ども政策課との合意のもとで市立保育園11園の園庭の土壌放射能測定も行っています。未来の子どもたちが健康であることの権利のためにデータを残すことが強く求められていると考えて、100人を超える市民の参加を得てこの調査をやりとげました。その結果、すべての公園と保育園庭から福島原発由来の放射性物質セシウム137とセシウム134が検出されました。すぐに子どもたちが危険であるという極端な汚染箇所はなかったものの、市内全体に原発事故による放射能汚染が広がったことがわかりました。私たちはこの時のデータを調布市と共有しています。調布市を汚染したセシウム137の半減期は約30年です。微量とはいえ放射線の影響を30年が経過しても半分にしか減衰させないという放射性物質を私たちは身近な環境に抱えているのです。この放射能が子どもたちに及ぼす影響は、30年後、50年後、さらにその後に、統計学的な調査で判定するしかありません。その結果は誰にもわかりません。そしてまだ12年しか経過していないのです。この状況に対して、十分に希釈した放射能で安全だからさらにまき散らしてもいいだろうといわれても、私たちは許すことはできません。 処理水の放射能レベルは無視できるものと結論づけたとされるIAEA(国際原子力機関)の報告書の内容を政府と東京電力は強調していますが、IAEAは同じ報告書の中で、日本政府からALPS処理水の海洋放出に関連する国際安全基準の適用を審査するよう要請があったのは、日本政府の決定後であった、したがって今回のIAEAの安全審査の範囲には日本政府がたどった処理水放出の正当化プロセスの詳細に関する評価は含まれていないと書いています。つまり処理水そのものの測定結果と、放出機材についての技術的な評価の部分だけが強調されているのであり、処理水の海洋投棄そのものの正当性について評価したものではなく、国際機関が許可したかのような印象操作をするのは間違いだと言わざるを得ません。 UNSCEAR(原子放射線の影響に関する国連科学委員会)の2013年の報告によれば、すでに福島第一原発からは750京ベクレル(7500ペタベクレル)もの放射能が大気中に放出されています。この放射能量は通常運転している世界中の原発が年間排出している放射能の総量をはるかに超える量です。これだけ全世界に対して、地球全体に対して迷惑をかけている日本が、これ以上の人工放射能を自然界に投棄することは、決して許されることではありません。このような全世界の中での日本という国家の存在、国家としての形さえ変えてしまうような決定を、国会での議論もしないままで、政府と東京電力だけで決めないでください。 私たちは、以上の趣旨のもとで、調布市議会が内閣総理大臣に対して、地方自治法第99条の規定に基づいて、8月24日に開始した福島第一原発のALPS処理水の海洋放出を中止することを要請する意見書を提出することを陳情します。 (意見書案) 日本政府は東京電力とともに決定したALPS処理水の海洋放出という方針を撤回してください。8月24日に開始した放出をすぐに中止してください。処理水の管理・処分方法については、政府と東京電力のみで決定せず、国会での慎重な審議を行ったうえで、日本社会の世論や国際社会からの意見も真撃に聞いたうえで決定してください。以上、地方自治法99条の規定にもとづいて、意見書を提出します。