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ページ番号:3511
掲載開始日:2020年3月5日更新日:2020年3月5日
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平成31年度・令和元年度 市長コラム「手をつなぐ樹」(第337号から第357号まで)
コラム一覧
- 第357号 庭先の花(令和2年3月5日号)
- 第356号 冷静かつ細心に(令和2年2月20日号)
- 第355号 ご異論も多々あるでしょうが(令和2年2月5日号)
- 第354号 「パラハート」の1年(令和2年1月20日号)
- 第353号 遠ざかる山車に(令和元年12月20日号)
- 第352号 「ふるさと」考(令和元年12月5日号)
- 第351号 全世界にCHOFUの名が(令和元年11月20日号)
- 第350号 お見舞い申し上げます(令和元年11月5日号)
- 第349号 愛しのアイルランド(令和元年10月20日号)
- 第348号 前触れなき打診(令和元年10月5日号)
- 第347号 誰(た)がための鐘(令和元年9月20日号)
- 第346号 いざ、ファンゾーン(令和元年9月5日号)
- 第345号 一途な努力が(令和元年8月20日号)
- 第344号 真の変革を実現するために(令和元年8月5日号)
- 第343号 大イベントに向けて(令和元年7月20日号)
- 第342号 全員の協力を願い(令和元年7月5日号)
- 第341号 身繕いを済ませ(令和元年6月20日号)
- 第340号 憩いのひろば空間を(令和元年6月5日号)
- 第339号 雨がしとどに降る中で(令和元年5月20日号)
- 第338号 パラリンピックの意義を調布から(平成31年4月20日号)
- 第337号 新たな自分の出現(平成31年4月5日)
第357号 庭先の花
先月来、新型コロナウイルスの影響で、やむを得ず中止または延期せざるを得ない市関連イベントも発生しております。どうか市民の皆様のご理解をお願いいたします。
そのような状況下ではあるが、春の訪れが顕著に感じられるようにもなってきた。萌え出ずる季節に、活力が徐々に身体全体にみなぎってくることを実感する中、ふと半世紀近く前のことを思い出した。
学生時代は、ときに周囲の温情に甘えてしまうものだが、ある日、友人とたまたま入った居酒屋で、相席をした五十年配のサラリーマンの方からご馳走になった。その際に拝聴したお話は、今に至るまで脳裏に焼き付いている。「これから頑張んなさいよ。でも羨ましいな。私らの若い頃には戦争があったからね。そして戦後の混乱の中では就職先を選ぶなんていう贅沢が許されようもなく、たまたま縁あった会社で今日まで必死に働いてきて、気がつけばもうすぐ定年だ。振り返って無念さもあるし、やり直せればと思ったこともあったな。でもね、ある年の春先に、うちのささやかな庭にぽっと小さな花が咲いたのを見つけたことがあるんだ。その瞬間、何とも言えない心の安らぎを覚えたんだよ。人生の幸せを感じるというかね」。
その方が仰りたかったことを当時、即座に理解できたわけでは無論ない。でも、今になればわかるような気がする。
調布市長 長友貴樹
(市報ちょうふ 令和2年3月5日号掲載)
第356号 冷静かつ細心に
新型コロナウイルスの蔓延に対する不安が国中に広がっている。本稿執筆時(2月10日)の感染者数は中国で4万人超、日本で20数人(註1)。死亡者は中国で約900人、その中には武漢に滞在した日本人も一人含まれている。人口約14億人の中国全土でみれば今回の死者が百万人に一人程度であることは確かだが、今後感染者が幾何級数的に増加することを誰もが危惧している。10数年前のSARS(註2)をご記憶の方も多いだろうが、あの時は最初の症例確認から終息宣言までに8カ月を要した。
現在この余波を受け、調布市内でもマスク不足が深刻化しているようだ。本格的な花粉飛散の季節も近づく中、今後の状況が懸念される。
このような状況下、厚生労働省及び地元保健所は感染症を予防するための基本的対策((1)手洗い、(2)普段の健康管理、(3)室内の適度な湿度管理など)の励行を呼び掛けている。
言うまでもなく早期の終息を切望するが、現状では事態を冷静に見極めつつ、取り組むべき予防に最善を尽くす以外に対処の術はない。
心待ちにする世界最大規模のスポーツの祭典に、いささかの悪影響も及ぼさぬことを心から願っている。
調布市長 長友貴樹
(註1)国内感染者数。それ以外に沿岸に停泊しているクルーズ船内に約130人。
(註2)中国広東省を起源とする重症急性呼吸器症候群。8000人以上が感染し、37カ国で774人が死亡したとされる(他説も存在)。
(市報ちょうふ 令和2年2月20日号掲載)
第355号 ご異論も多々あるでしょうが
経年劣化で画面が極めて不鮮明になったため、昨年末に私的使用の携帯を買い替えた。そのことを人に話した時、新たに求めた機器がスマホではなく、依然としてガラパゴス携帯(ガラケー)だと分かった瞬間の相手の反応は概ね3つに分類できる。(1)目が点になる。(2)プッと噴き出す。(3)大きくのけぞる。
そう言えば、先日ある量販店でポイントカードの廃止、および同一サービスのスマホへの移行を私に告げた店員さんの顔つきも同様だった。「スマホ、お持ちではないですか」と訝(いぶか)しそうに尋ねながら。のけぞりはしなかったが。
時流に無理に抗(あらが)っているつもりはない。ただ、電話とメールで必要事項の交信ができれば私はそれで十分だ。考えてみよう。生活上のさまざまな利便性の享受が反面、SNS(註)や動画コンテンツ等の過度な利用・視聴により時間の浪費を招いてはいないだろうか。趣味やレジャー等の分野で便利なサービスを受けたいなら、余暇の極めて短時間にパソコンでまとめて処理すれば事足りる。産業界は当然、スマホに特化した有用性をこれからも強調するだろうが、携帯機器に出納管理まで委ねることは個人情報の流出に留まらず随分危険なことにも思える。また、スマホの小画面でゲームに没頭する子供たちの視力低下はまさに危機的状況だ。
携帯が普及する前は通勤・通学の電車内でも多くの人が文庫本を手にしていたことを想起しながら、ときに長嘆息している。
調布市長 長友貴樹
(註)ソーシャルネットワーキングサービス(Social Networking Service)の略で、登録した利用者同士が交流できるウェブサイトの会員制サービス
お詫びと訂正 市報1月20日号1面「手をつなぐ樹」内に誤りがありました。お詫びして訂正します。訂正箇所/註釈1内の東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会において市内で開催される競技名 誤 自動車競技(ロードレース) 正 自転車競技(ロードレース)
(市報ちょうふ 令和2年2月5日号掲載)
第354号 「パラハート」の1年
今年は言うまでもなくオリンピックおよびパラリンピックイヤー。ご存じのように、調布市は幸運にも両大会において競技の開催都市に選ばれている(註1)。そして特にパラリンピックにおいては、東京都の依頼を受けて昨年のラグビーW杯同様にパブリックビューイングなどのイベントを実施することがすでに決まっている。
そこで市としては、この機会に単に期間中にパラリンピックを盛り上げるだけではなく、今年1年間を通して共生社会の素晴らしさを実感する年にしたいと考え、すでに取り組みを開始した。
人は齢を重ねるに従い誰しも身体的障害を有するようになる。私はこの当たり前のことをこの数年以内に90代半ばで相次いで他界した両親の最晩年を見守りながら改めて痛感した。五感を始め、身体機能にはそれぞれ固有の耐用年数があるので当然のことながら。それ以来私は、健常者と障害者を隔てる心のバリアーとは何だろうと自問自答している。
「パラハートちょうふ」。このキャッチフレーズのもとに、既存の事業を中心に共生社会の意義を考えるキャンペーンを通年で実施していく(註2)。どうか各イベントにご参加頂くとともに、より素晴らしいコミュニティーづくりのためにご意見をお寄せ頂きたい。
調布市長 長友貴樹
(註1)オリンピック 7月24日(金曜日)から8月9日(日曜日)、パラリンピック 8月25日(火曜日)から9月6日(日曜日)。市内では、バドミントン、自転車競技(ロードレース)、サッカー、近代五種、7人制ラグビー、車いすバスケットボールが実施される。
(註2)年間を通じて、既存のイベントを中心に福祉、健康、教育、文化、環境、まちづくりなど多岐にわたる100近くの事業(令和元年12月末時点)を展開予定
(市報ちょうふ 令和2年1月20日号掲載)
第353号 遠ざかる山車に
ラグビーW杯が終了して約1カ月半が経過したが、いまだ心の中では、味の素スタジアムおよび調布駅前近辺における熱狂の興奮が覚めやらぬ思いだ。閉幕直後には、「虚脱状態です」と仰っていた市民の方も少なくなかった。
板画家(註)の故棟方志功氏が故郷青森のねぶた祭りについて生前、「祭りの終盤、大きな山車が徐々に遠ざかっていくときの余韻もまたねぶた祭りの魅力だ」と言われていたことを思い出す。マグマが噴出するような巨大なエネルギーの発散のあとに訪れる名状しがたい虚脱感、寂寥(せきりょう)感。
そして今回、日常生活との落差が余りに甚だしかったと感じるとき、換言すればそれだけ大きな幸運に恵まれたのだなと改めて認識して自分を納得させる。
味の素スタジアムで挙行された8試合における観客総数が38万人。東京で試合のなかった日を含めて調布駅前のファンゾーンに13万人。計50万人を超える国内外からの来訪者の目に調布のまちは果たしてどのように映ったのだろうか。今年の総括をしっかり行って来年に備えたい。
「平和の祭典オリンピック」並びに「共生社会の素晴らしさを実感するパラリンピック」を有意義に迎えるためにも。
来たる年が、皆様にとりまして実り多き1年となりますことを心からお祈り申し上げます。
調布市長 長友貴樹
(註)1942年以降、棟方氏は版画を「板画」と称した。
(市報ちょうふ 令和元年12月20日号掲載)
第352号 「ふるさと」考
全都道府県の中で他県の出身者が最も多く住むのは、間違いなく東京都だろう。
私も親の勤務のために転居を繰り返し、新潟、香川、広島、大阪を経て東京にたどり着いた、いわばさすらい人だ。在京生活はすでに半世紀近くに及び、人生で最も長く居住する地になったことは確かだ。しかし、そうかと言って無論東京人だと思ったことはない。
〈ふるさとの訛(なまり)なつかし停車場の人ごみの中にそを聴きにゆく〉。石川啄木と同じ心情かどうかはわからないが、やはり自分が育った土地の言葉はどの角度からでも直線的に耳に入ってくるものであり、その瞬間に無意識に心の安らぎを覚えるものだ。
〈ふるさとは遠きにありて思ふものそして悲しくうたふもの〉。室生犀星の思いに共感される方は多くおられると思う。ただ私には残念ながらそこまでの感情は存在しない。就学前から10年以上住んだ大阪が強いて言えば心のふるさとではあるが、両親は九州および東北の出身であり、大阪に親類縁者がいるわけでもない。郷里と呼べる地域を明確に持つ方を正直羨ましく思う。
そして、人生の折々に郷愁の念にかられることは誰しも経験するところであろうし、その地を支援したいという純粋な気持ちは尊いと思う。その発露だけであれば、ふるさと納税にも大きな問題は生じないのだろうが。
調布市長 長友貴樹
(市報ちょうふ 令和元年12月5日号掲載)
第351号 全世界にCHOFUの名が
9月20日から約1カ月半の熱狂に終止符が打たれた。アジアで初の開催となったラグビーワールドカップ日本大会。世界中のまなざしがわが国に注がれる中、日本チームは見事に予選リーグを突破し初の決勝トーナメント進出を果たした。
各国リポーターは開会式に臨み、会場である東京(味の素)スタジアムを紹介する中で調布の地名を自国に向けて発信したに違いない。全世界の人々の耳にCHOFUの名前が轟き渡った。なんと嬉しいことだろう。
大会期間中、調布駅前ではパブリックビューイングやラグビーにちなんだイベント、また調布を紹介するためのさまざまな催しなどが展開された。国内外から予想を上回る数の人々に訪れて頂き有難かったが、一部、騒音や歩行規制でご迷惑をお掛けしたことにはお詫び申し上げたい。
盛り上がる中、大のラグビーファンである知人に何試合ぐらい会場で試合をご覧になったのですかと問うたところ、意外な答えが返ってきた。「いやー、観てないんですよ。ボランティアに応募したら採用されましてね。ずっと飛田給あたりで開催のお手伝いをしてました」。
このような方の貢献があってこそ、わが市における取り組みが円滑に進行したことを痛感した。本当に頭の下がる思いで、心から感謝申し上げる次第だ。
調布市長 長友貴樹
(市報ちょうふ 令和元年11月20日号掲載)
第350号 お見舞い申し上げます
先月日本に上陸した台風19号は国内広範囲にわたって災禍をもたらし、調布市においても多くの被害が発生しました。被災された市民の皆様に心からお見舞いを申し上げます。
今回市役所では、台風上陸が予想された10月12日以前、10日および11日にすべての部が参集し、自主避難所(註)設置などの災害対応につき協議の場を持った。
12日は朝から厳戒態勢をとり、午前中にまず自主避難所5カ所を設置し、その後降雨状況を見定めながら自主避難所を増設するとともに、当初予定していた規模を大幅に拡大して職員の参集を図った。そして、設置した災害対策本部を拠点に各部が災害や対応策についての情報を共有するとともに、多摩川の増水状況に関し国土交通省京浜河川事務所などからの密な情報収集を継続する中で、指定避難所(註)の対応要員を確保した上で午後3時台に特定地域に対する避難勧告の発令を決定した。
結果的に避難者は約6000人に達し、不便な環境で数日を過ごされた方もおられた。染地地域を中心に床上・下浸水が100戸以上のご家庭で発生し、現在もその復旧対応は継続している。
現在、狛江市とともに原因究明作業を進めているほか、今後の治水対策については多摩川流域各自治体とも協議しながら、国や都にも強く働き掛けていく。
調布市長 長友貴樹
(註)自主避難所とは、気象情報や自宅の周辺状況などをもとに自主的に避難する方のために、一時的に開設する避難所で、指定避難所とは、災害対策基本法に基づく市地域防災計画に定めている避難所。自主避難所7カ所、指定避難所11カ所(第三小学校及び第二小学校は当初自主避難所として開設し、避難勧告をもって指定避難所に移行)を開設
(市報ちょうふ 令和元年11月5日号掲載)
第349号 愛しのアイルランド
当時出向していた中小企業庁からアイルランドに1カ月の出張を命じられたのは1984(昭和59)年秋のことだった。目的は、アイルランドの産業振興に資するために、同国政府に日本の中小企業政策を説明すること。両国の産業規模を比較すると、アイルランドの産業振興には、ちょうど日本の中小企業政策が役立つと見なされていた。
首都ダブリンのみならず、コーク、シャノンといった地方都市も訪れたが、どの地でも例外なく懇切丁寧な対応を頂き、アイルランド人の誠実さや優しさに自然と好感を覚えるようになっていった。聞けば欧州でも指折りの敬虔なカトリック国であるという。彼らの温かい対応は仕事上の関係に留まらず、滞在中の余暇の過ごし方についても同様であった。手厚いアイルランド流「おもてなし」は旅情に浸る中で深く心に沁みた。その時季、週末の最大イベントは何と言ってもラグビー観戦。他国とのテストマッチにおける緑のジャージの突進に私もともに我を忘れて熱狂した。生涯忘れ得ぬ異国での触れ合い。
ああ、なんと今W杯で、その愛しいアイルランドと決勝トーナメント進出をかけて競うことになろうとは。本稿脱稿時には結果が判明しておらず誠にもどかしい(註)が、ちょうど市報発行時に両国がそろってベスト8に歩みを進めていることを心から願っている。
調布市長 長友貴樹
(註)本稿の締め切り日は10月10日。その時点で両国はともに最終戦を残した上で、日本が勝ち点14でプールA1位。アイルランドは勝ち点11でプールA2位。
(市報ちょうふ 令和元年10月20日号掲載)
第348号 前触れなき打診
その電話が突然掛かってきたのは7月頃だったという。内容はラグビーW杯で来日するフランス人を多数受け入れてくれないかという打診。市内フランス料理店の店主は戸惑われたという。それはもっともだ。まるでエイプリルフールのような話をにわかに信じてよいものか。
私はこの話を直接店主から伺い質問した。「それでどうしたんですか」「相手を確認しようとこちらから電話してみたところ、どうもフランス大使館関係者に間違いないようなのでお受けすることにしました」。
東京(味の素)スタジアムでフランス対アルゼンチンの熱戦が繰り広げられたのは9月21日。当日の昼には予約通りなんと40人ほどのフランス人が来店し、貸し切り状態の中で試合前からワインを飲みつつ大いに盛り上がったとのこと。リクエストされたボルドーに因む料理付きで。さらに、大接戦の末、見事勝利を収めたあとには約半数のサポーターが午後7時過ぎに再度来店し、10時ごろまで勝利の美酒に酔いしれたそうだ。
大会前からある程度予期していた国際交流がこのような形で実現していることを知って、本当に嬉しい限りだ。店には訪れたサポーターが楽しそうに時を過ごした写真が多数残された。
トラブルや事故の無い中で、国の垣根を越えた草の根の交歓の輪が広がることを心から期待したい。
調布市長 長友貴樹
(市報ちょうふ 令和元年10月5日号掲載)
第347号 誰(た)がための鐘
広島に住んでいたときだから、昭和30年代初めの頃だ。ある日の朝、就学前の私は父に連れられて姉の通っていた小学校を訪れようとしていた。何か保護者の学校に対する奉仕活動のためだったような気もするが、定かな記憶はない。
しかし、道すがら父が珍しく歌を口ずさんでいたことは、なぜか鮮明に覚えている。「緑の丘の赤い屋根 とんがり帽子の時計台」。それが昭和20年代前半の人気ラジオドラマ「鐘の鳴る丘」(註)の主題歌「とんがり帽子」だということを知るのはずっとあとのことになるが。
先日、その歌をテレビで久し振りに耳にした。そして、その歌の背景に戦後の復員兵と戦災孤児たちの心温まるふれあいのストーリーがあったことをあらためて確認した。
父は中国で終戦を迎えたもののシベリア抑留となり、ちょうど鐘の鳴る丘が大ヒットしている時期に遅れて復員してきたようだ。今となっては確かめようもないが、戦後10年たった頃、どのような思いであの歌を口ずさんでいたのだろう。
今夏、市は市内在住・在学の中学生12人を「ピースメッセンジャー」として広島に派遣した。原爆ドームや平和記念資料館などを視察した参加生徒たちは、帰京後の感想文に託して平和への純粋な感情を伝えてくれた。その思いを大切に今後もさまざまな平和祈念事業に取り組んでいきたい。
調布市長 長友貴樹
(註)菊田一夫原作で昭和22年から25年までNHKで放送されたラジオドラマ。復員した主人公の青年が信州の山里に戦災孤児たちの居住施設を作ろうと奮闘する物語。
(市報ちょうふ 令和元年9月20日号掲載)
第346号 いざ、ファンゾーン
今月20日金曜日、いよいよラグビーW杯日本大会が開幕の日を迎える。わが東京(味の素)スタジアムに世界強豪20カ国が集い開会が宣言されるわけで、誠に心の沸き立つ思いだ。
そして、11月2日の横浜国際総合競技場における決勝戦まで、全国12会場で48試合が挙行されるが、東京には最多の8試合が割り当てられ、その中に準々決勝2試合と3位決定戦までもが含まれている。
そこで、入手困難な観戦チケットを幸運にも確保された方はスタジアムで熱戦を堪能されるわけだが、それ以外の方で今大会に関心をお持ちの皆さんには、以前からお知らせしているように調布駅前で開催されるファンゾーン(註1)にぜひ足を運んでいただきたい。
日程については2面で紹介のとおり、東京で試合のない日も含めて18日間の開催となる。内容としては、グリーンホールおよび駅前広場の屋内外両方で迫力ある大画面のパブリックビューイングを行うとともに、ラグビー体験やトークショーなどのステージパフォーマンス、関連グッズの販売などの盛り沢山な企画が用意されている。もちろん屋外では出場国にちなんだ美味しい料理などの飲食も可能となる。
アジアで初めての開催となる世界最高峰のラグビーの祭典を心ゆくまでお楽しみ下さい。(註2)
調布市長 長友貴樹
(註1)23区内では有楽町(東京スポーツスクエア)、多摩地域では調布駅前のみで開催。
(註2)それに先立ち、9月6日(金曜日)午後5時から調布駅前広場で、「リポビタンDチャレンジカップ2019 日本代表対南アフリカ代表」のパブリックビューイングが開催される。ゲストによる試合解説のほか、ラグビー強豪国の名物料理などを楽しめる。
(市報ちょうふ 令和元年9月5日号掲載)
第345号 一途な努力が
先月末、19歳の女子プロゴルファー稲見萌寧(もね)選手が国内トーナメントで初優勝した。
彼女の試合に出場する以外の日の練習は1日10時間。それをなんと10年間休まずに続けたという。10時間のすべてがハードトレーニングではないかも知れないが、それにしても驚嘆すべき克己心と言わざるを得ない。
そのことの強い印象が冷めやらぬうちに、今度は20歳の渋野日向子(ひなこ)選手が、今月の全英女子オープンゴルフにおいて、女子ゴルフの世界5大メジャー大会(註)では1977年に全米オープンを制した樋口久子選手以来、日本人として実に42年振りの優勝という快挙を達成した。
そして、常に絶やさない微笑みから、「スマイリング・シンデレラ」と称され英国でも多くのファンから人気を得たという。ただ、彼女は高校卒業後にプロテストに失敗するなどの挫折も経験しているという。
二人を見て、人がその実力を伸長させるときの勢いは誠に目覚ましいものだとつくづく思う。しかし、芽が出る直前までの地中の細胞分裂は誰の目にも見えない。スポーツのみならず、高い目標に向かって長年一途な思いで精進を続けるすべての人に、改めて心からの称賛を贈りたい。
人生において、努力と期待した成果はなかなか直結しない。だが、今回のようなケースを見ると、やはりわが身を鼓舞される思いだ。
調布市長 長友貴樹
(註)LPGA(全米女子プロゴルフ協会)におけるメジャー選手権のことで、ANAインスピレーション、全米女子オープン、全米女子プロゴルフ選手権、全英女子オープン、エビアン選手権。
(市報ちょうふ 令和元年8月20日号掲載)
第344号 真の変革を実現するために
働き方改革の必要性が声高に叫ばれるようになって久しい。その一環として、本年4月より年5日の年次有給休暇を労働者(註1)に確実に取得させることが使用者に義務付けられた。一つの前進ではあるが、諸外国の実態とはまだかけ離れた水準であると言わざるを得ない(註2)。
私の40年を超える勤労生活の中で、当然ながらそれを取り巻く社会環境および勤労者の意識は大きく変化してきた。以前、日本が高度経済成長を維持する中で、私的生活を犠牲にしたいわば滅私奉公的な働き方が評価されがちだったことは事実だ。また、残業の存在はある程度やむを得なかったとしても、勤務終了後の時間の使い方が、あまりにも男性中心の身勝手なものと指摘されてもやむを得なかったかと今になれば思うところもある。一概に、時代が違ったとの一言で済ませるつもりはないが、現在、若い世代の家庭内ではとてもそのようなことは許されないのだろう。
顧みて、今思う。とどのつまりは個々の人生観ではないかと。やりがいのある仕事、安らぎを覚える家庭を確保するために、どのような比率で時間を費やすべきか。それは、何に価値観を置く一生を選択するかとの問いと同義かもしれない。
そのことを国民一人ひとりが突き詰めて考えることにより、はじめて社会の大きな変革が可能になるのではないかと思っている。
調布市長 長友貴樹
(註1)対象は年次有給休暇が10日以上付与される労働者。
(註2)世界最大級の総合旅行サイト「エクスペディア」の2018年の調査でも、日本人の有給休暇取得率および取得日数は国際的に最低水準。
(市報ちょうふ 令和元年8月5日号掲載)
第343号 大イベントに向けて
先月15日に調布駅前広場で開催予定だったスクラムフェスティバルが、終日の降雨により中止になったことは本当に残念だった。
ラグビー体験、ラグビー講座、トークショー、写真撮影スポット、スタンプラリーなどに加え、飲食やPRエリアも設けて一日中楽しんで頂くイベントとすべく長期間かけて準備を進めてきたのだが、さすがにあの氷雨の中で強行することは叶わず、断腸の思いで中止を決定した。当日昼頃に広場を通りかかったが、楽しみにしておられた方や献身的に開催にご協力頂いた市民の方々の心情を思い無念さが込み上げてきた(註1)。
今月24日はなんとか好天に恵まれるよう祈る思いだ。ちょうどオリンピック開幕の1年前にあたる同日に、昨年同様、京王多摩川駅近くの京王閣競輪場内において調布サマーフェスティバルを開催する。
車いすバスケットボール、フェンシング、ボッチャ、ラグビー、自転車など数多くの競技体験や東京五輪音頭盆踊り、またフィナーレを飾る花火の打ち上げなど盛りだくさんのプログラムとなっている。ぜひご家族連れでお越し頂きたい。
その他、今月はテストイベントとして、自転車ロードレースやバドミントンの国際大会も開催される(註2)。2年連続の世界的スポーツ大会に向けて、いよいよ機運が高まってきた。
調布市長 長友貴樹
(註1)次回はスクラムフェスティバルVol.5として、9月1日(日曜日)午前11時から調布駅前広場で開催予定。
(註2)プレ五輪イベント的に、7月21日(日曜日)正午から武蔵野の森公園をスタート地点として、多摩地域8市を通り富士スピードウェイを目指すREADY STEADY TOKYO-自転車競技(ロード)が実施される。また、7月23日(火曜日)から28日(日曜日)に武蔵野の森総合スポーツプラザでダイハツ・ヨネックスジャパンオープン2019が開催される。
(市報ちょうふ 令和元年7月20日号掲載)
第342号 全員の協力を願い
本年3月26日に公布された調布市受動喫煙防止条例が、7月1日に施行の日を迎えた。
その目的は、当然ながら受動喫煙による健康への悪影響から市民等(註1)を守るとともに、受動喫煙及び喫煙による身体への悪影響等に関する啓発及び教育を行うことにより、次代を担う子どもたちをはじめ誰もが健康に暮らせるまちを創ることにある。
具体的取り組みとしては、条例及び施行規則において、大部分の市立施設における喫煙を禁止する(註2)とともに、受動喫煙の防止を図る必要があると認める路上、駅前広場などを路上等喫煙禁止区域として指定している。また、必要な指導、命令を行うための路上等喫煙防止指導員を置くことができると規定するほか、条例施行後の状況を見極めた上で、今後、規定違反者に過料を科すことも視野に入れるなど、従来の対策を大幅に強化する内容となっている。
これまで喫煙者に対しては、喫煙マナーを順守するよう再三、要請してきたところだが、残念ながら著しい改善に結び付けることは難しかった。本条例により市民等の健康維持やまちの美化に顕著な効果が表れることを期待している。
そのためにも調布市民のみならず、すべての方のご協力を心からお願いする次第です。
調布市長 長友貴樹
(註1)市内に居住し、もしくは滞在し、または市内を通過する者。
(註2)その他、学校や児童福祉施設に隣接する路上での喫煙も禁止。
(市報ちょうふ 令和元年7月5日号掲載)
第341号 身繕いを済ませ
ある時、すでに引退しておられた都内某市の前市長が、数人の現役市長の前で、退任後どのような日常生活かと問われて、こう仰った。「朝起きるだろ。顔を洗って髭を剃る。朝飯を済ませて身繕いをする。ワイシャツ、ネクタイ、背広を身につけ、靴を履く。そして、いざ家を出ようとして、その瞬間にはっと気がつくんだ。行くとこがねえんだよ」。前市長は座談の名手。座はどっと笑いに包まれた。
もっともだ。考えてみれば、私の場合も人生で今日まで必ず行くべきところがあったわけだ。いったい何年間?幼稚園以来とすれば現在が63年目になる。そして、学業終了後に生業(なりわい)を得たとしても、もし定時に外出する必要がなかったとしたら、何らかの社会活動に連なり幾ばくかの収入を安定的に得ることが果たして自分にできていただろうか。自問自答して確たる自信はない。著名な作家が物書きの資質について問われ、「一番は、たとえ書くべきことが頭に浮かんでこなくても、ずっと書斎の机にへばりつく忍耐力だ」と言われた。とてもそんなことはできそうにない。
朝、一定の時刻になれば自動的に玄関のドアを開け外に出る。そのリズムを刻ませてくれた社会に感謝したい。そして、リズムを途切れさせないためにも、健康にはくれぐれも気をつけていかねばとつくづく思う。
調布市長 長友貴樹
(市報ちょうふ 令和元年6月20日号掲載)
第340号 憩いのひろば空間を
先月18日、下石原1丁目、鶴川街道沿いの旧線路跡に鬼太郎ひろばが開園した。
幸いまずまずの日和に恵まれ、オープニングセレモニーに参加するために10時前に現地に着いて驚いた。すでに、親子連れなど数百人の鬼太郎ファンが詰めかけておられたのだ。参加者は調布市民だけではなかったのだろうが、今更ながらに「水木ワールド」の根強い人気を思い知らされた。「一反もめんベンチ」、「鬼太郎の家滑り台」、「ぬりかべクライミング」などの心楽しいキャラクター遊具に興じるお子さんたちの弾ける笑顔が本当に微笑ましかった。
また、その翌週23日には、調布駅前広場の照明点灯式が行われた。これは、広場内の路面に影絵を映し出したり、樹木や壁画をライトアップすることによって、多くの方に遊び心の中で、広場に対する親しみをより深めて頂きたいとの思いで企画されたものだ。影絵は、第一弾として「水木マンガの生まれた街 調布」をコンセプトとしている。
両方の計画を進めるにあたっては水木プロダクションに全面的にご協力頂いた。
その他、観光協会等すべての関係者に心から感謝申し上げるとともに、市民の皆様にも是非ご確認頂き、今後の進展のためにもご意見を頂戴できればと考えている。
調布市長 長友貴樹
(市報ちょうふ 令和元年6月5日号掲載)
第339号 雨がしとどに降る中で
明治は遠くなりにけり。昭和40年代頃にこのフレーズがよく人々の口にのぼったことを覚えている。その時分私は10代半ばぐらいだったから、無論その言葉の意味する追憶とは無縁だったが、過ぎ去りし時代を懐かしむ人たちの郷愁の念に漠然とではあるが好感を持ったことを記憶している。人生が晩年に差しかかれば、誰しもそのような心境に至るものかと思ったものだ。
言うまでもなく、この言葉は中村草田男の句、「降る雪や明治は遠くなりにけり」に由来する。草田男は明治34年生まれであり、30代の前半であった昭和初頭に自分が学んだ尋常小学校を訪れた際この句を詠んだとされているが、その時、彼の脳裏に去来する思いはどのようなものだっただろうか。
平成は30年余でその幕を閉じた。この1、2カ月間、その時代分析がさまざまな観点からなされたが、正直言って少なくとも私にとっては、自らの人生の半分程度を過ごした期間にもかかわらず、その元号に関する思い入れは昭和に比較して極めて希薄だ。同世代の皆様の感覚はいかがだろうか。
平成最後の日、東京は終日雨模様だった。「降る雨や昭和は遠くなりにけり」。ただし雨では季語たり得ず、川柳にしかならないか。
令和が調布に、また日本にとって素晴らしい時代になりますように。
調布市長 長友貴樹
(市報ちょうふ 令和元年5月20日号掲載)
第338号 パラリンピックの意義を調布から
ラグビーW杯開催中の9月から11月にかけて調布駅前で開催される「ファンゾーン」については前々号の本欄でご紹介した通りだが、それに加えて東京都から新たな依頼がわが市に寄せられた。
それは、来年のパラリンピック期間中に、「ライブサイト」(註)という大会を盛り上げるための大きな催しを調布で開催頂きたいという要請だ。前述のラグビーにおけるファンゾーンと同様の趣旨のイベントになる。当初の計画では23区内では代々木公園等7カ所が候補地に選定されたが、多摩地域で対象とされたのは三鷹市の井の頭恩賜公園のみであったため、東京都市長会としては候補地を追加するように東京都に強く要望してきた。
その結果、新たに多摩地域でオリンピックにおいては八王子市の南大沢周辺、パラリンピックについては調布駅前広場周辺が候補地として今月、正式決定されたものである。
市としては、東京都の方針に基づき、来年のパラリンピック開催期間(8月25日から9月6日)を通して、競技を盛り上げるのみでなく、障害者を取り巻く環境に対する社会の理解を一層促進するための広範なキャンペーンを展開したいと考えている。
調布市長 長友貴樹
(註)世界中から訪れる観戦客などが、競技チケットの有無にかかわらず、誰でもライブ中継を通じて競技観戦を楽しみ、大会の感動と興奮を共有できる会場。
(市報ちょうふ 平成31年4月20日号掲載)
第337号 新たな自分の出現
今から45年前のある秋の日の夕暮れ時、大学生だった私は友人のアパートで彼と一緒にテレビにくぎ付けになっていた。その画面には夕闇迫る後楽園球場(註1)で涙ながらにファンに最後の別れを告げる読売巨人軍長嶋茂雄選手の姿が映し出されていた。
物心ついたころから夢中になった野球に興じる中で、我々の年代の圧倒的ヒーローは何と言っても長嶋選手だった。そして、おそらく野球に関心のない人々も含め多くの日本人が、高度経済成長でめざましく発展する我が国の明るさの一つの象徴として長嶋さんの存在を感じ取っていたことは間違いない。それゆえに彼の引退は、昭和の一時代の大きな区切りとしての社会現象として受け止められたとも言えよう(註2)。
今回のイチロー選手の引退も、たまたま彼のプロ野球人生がほぼ平成と重なるがゆえに、一つの時代の終焉とする見方も成立しよう。ただ、それが何の終わりを意味するかの解釈は人によりさまざまかもしれない。
また、それとは別に、記者会見における「外国人になったことで人の心を慮(おもんぱか)ったり、人の痛みを想像したり、今までなかった自分が現れた」との言葉は心に残った。その真意は彼に確認するほかないが、若者には、その言葉を噛みしめた上で他国を知ることの意義を考えてほしい。
調布市長 長友貴樹
(註1)現在の東京ドームの前身。
(註2)その前年、1973年に発生した第1次オイルショックで我が国は大きな経済的打撃を被(こうむ)った。
(市報ちょうふ 平成31年4月5日掲載)