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ページ番号:3512
掲載開始日:2019年3月5日更新日:2019年3月5日
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平成30年度 市長コラム「手をつなぐ樹」(第319号から第336号まで)
コラム一覧
- 第336号 おもてなしボランティア(平成31年3月5日号)
- 第335号 オール調布の快挙(平成31年2月20日号)
- 第334号 ふるさとの雑煮(平成31年2月5日号)
- 第333号 青い空へ夢を乗せて(平成31年1月20日号)
- 第332号 夕暮れのまち(平成30年12月20日号)
- 第331号 育樹祭を終えて(平成30年12月5日号)
- 第330号 最善の「おもてなし」を(平成30年11月20日号)
- 第329号 まちづくりを通じて(平成30年11月5日号)
- 第328号 国際的な挑戦を(平成30年10月20日号)
- 第327号 彼岸に思う(平成30年10月5日号)
- 第326号 来年以降のためにも(平成30年9月20日号)
- 第325号 より良い交通環境を(平成30年9月5日号)
- 第324号 あのかち割りの夏(平成30年8月20日号)
- 第323号 避難の意識を(平成30年7月20日号)
- 第322号 真に豊かな人生のために(平成30年5月20日号)
- 第321号 まちへの思い(平成30年5月5日号)
- 第320号 エッ、何を?(平成30年4月20日号)
- 第319号 旅立ちに臨んで(平成30年4月5日号)
第336号 おもてなしボランティア
今年と来年、調布市において開催されるラグビーのW杯およびオリンピック・パラリンピックへの準備は鋭意進んでいるが、その内容を市内の団体や企業の皆さまなどにご説明するための会合を先月20日に開催させて頂いた(註1)。
前半は、ラグビーW杯組織委員会の事務総長特別補佐、徳増浩司氏による「ラグビーW杯日本大会に向けて」と題する講演だったが、大会日本誘致活動当事者の大変なご苦労が実感でき、ラグビー先進国以外、またアジアで初となる日本開催の意義を深く理解することができた。
その後、現時点で把握している2年間のビッグイベントに関するさまざまな情報を参加者にお伝えしたわけだが、そのうちの2点について触れさせて頂きたい。
一つは、今年のラグビーW杯の開催時にわが市で開催されるファンゾーンという催しだ。9月から11月までの東京スタジアム(味の素スタジアム)における試合日およびその間のすべての土日での開催が想定されており、調布駅前広場およびグリーンホールを使用して、パブリックビューイングのほか、ラグビー体験コーナー、飲食コーナー等を設けて毎回数千人にお楽しみ頂く。
もう一つは、調布市おもてなしボランティアだ。来訪者に対するサポートやイベント運営補助に従事する方を募集している(註2)。多くの方に応募頂ければ誠に幸いです。
調布市長 長友貴樹
(註1)前回は平成30年10月1日に開催。次回は5月に開催予定。
(註2)市内在住・在勤・在学の平成14年4月1日以前に生まれた方で、200人程度を、3月29日(金曜日)まで募集中。詳細は市ホームページ参照。
(市報ちょうふ 平成31年3月5日号掲載)
第335号 オール調布の快挙
この快挙をご報告できることがなんと嬉しいことだろうか。
第10回中学生東京駅伝大会。今年も東京23区、26市および瑞穂町の都内50自治体において選抜された中学2年生が、味の素スタジアムに隣接するアミノバイタルフィールドを起終点に、それぞれのまちの期待を背に、男女別に激走して覇権を競った。
わが調布市チームは、昨年見事に男女とも過去最高タイムを記録して特別賞を受賞した。順位は男子17位、女子15位で、合計タイムの総合では17位だった。中学2年生の生徒数では、調布市は参加50自治体中21番目に位置するから17位は健闘と言える。
そして今年の大会。なんと男子が11位に食い込み、女子は男女通じて初のベスト10入りとなる8位入賞を果たしたのだ。総合でも11位でタイム、順位の全てにおいて過去最高を記録した(註)。
この結果は、決して偶然もたらされたものではない。一昨年からの選抜予選会の実施、合同練習、西調布に合宿所を有する箱根駅伝のシード校、拓殖大学によるご指導。これらが結実した成果なのだ。公立8校に加えて市内私立中学校も予選会に参加していただき最強チームが編成できているのも喜ばしいことだ。
今後、これ以上の成績を期待するのは容易ではないだろうが、次に続く選手たちにも目標を高く持って頑張ってもらいたい。
調布市長 長友貴樹
(註)タイムは、男子2時間23分53秒(2時間25分37秒)。女子1時間54分12秒(1時間56分31秒)。括弧内は昨年度。また女子では、晃華学園鈴木詩万(しま)さんが、2.5キロを走った300選手中9位で敢闘賞を受賞(女子は全16区間中、10区間が1.5キロ。6区間が2.5キロ)。
(市報ちょうふ 平成31年2月20日号掲載)
第334号 ふるさとの雑煮
調布市名誉市民の医師、山田禎一氏(註)が逝去された。享年93歳。山田先生の常に慈愛に満ちたお優しい笑顔が脳裏に浮かんでくる。
10年以上前、先生が「今日検診に行くので一緒に来ませんか。何かの参考になるかもしれない」と言われたので、同行させて頂いたことがある。ある団地に着くと、すでに高齢者が20から30人ほど集まっておられた。先生は、すべての方と顔なじみのご様子で、一人ひとりに「しっかり食べなさいよ」とか「運動も大事だから」などと声を掛けながら、脈を診たり、血圧を測ったりしておられた。集まられた方々が、先生に会うだけで安堵の表情を浮かべておられたことを印象深く覚えている。先生は調布以外にも複数の医療施設を有し、日々多忙を極めておられることを存じ上げていたので、寸暇を割いてのそのような活動に甚(いた)く感銘を受けた。
先生は富山県滑川市のご出身で、地元への貢献が高く評価され、同市からも名誉市民の称号を得ておられる。「田舎の雑煮には鰤(ぶり)を入れるんですよ」と目を細めて語られていたことなどを思い出す。遠く郷里を離れても、常に心の中では生まれ育った山河を慈しんでおられたのだろう。
先生、どうか安らかにお眠り下さい。本当に有難うございました。
調布市長 長友貴樹
(註)3人目の調布市名誉市民として、平成24年11月30日に顕彰。
(市報ちょうふ 平成31年2月5日号掲載)
第333号 青い空へ夢を乗せて
兼高かおるさんが亡くなられた。おそらく私の世代以上でこの方の名を知らない人はいないだろう。
兼高かおる世界の旅。昭和34年から31年間放送されたわが国の本格的な海外紀行番組の先駆けであり、大げさではなく、当時の日本における数少ない世界に開かれた窓であった。
昭和34年と言えば、今年退位される天皇陛下のご成婚で日本中が沸き立った年であり、私はピッカピカの小学校1年生だった。その頃のわが国は、戦後まだ10余年で道路、下水道その他の都市インフラも全国的に未整備な一介の発展途上国であった。当然外貨も乏しく、一般の国民が自由に海外渡航するようなことは夢物語に近かった。そのような時代に世界中を訪れさまざまな国の日常を紹介するヒロイン兼高さんの姿を通して、国際的な活動に身を投じる夢を膨らませた若人が数多くいたことは想像に難くない。
放送開始からちょうど60年経過した現在、日本はその間に目覚ましい発展を遂げ、世界中の情報が容易に得られ、海外旅行も極めて身近なものになった。
それは大変素晴らしいことには違いない。しかし、海外を知ることにわくわくと胸ときめかせた往時の熱い思いが薄れることが国全体の活力低下を招かねばいいのだが。「パンナム青い空へ、パンナム夢を乗せて」。
調布市長 長友貴樹
(市報ちょうふ 平成31年1月20日号掲載)
第332号 夕暮れのまち
繰り返し思い出す昔の情景というものが、誰にでもあるのではないだろうか。
たとえば私にとっては、自分が子どものころ暮らしたまちが綺麗な夕焼けに染まるさまだ。威勢のいい売り声が響く商店街に多くの人が行き交っている。割烹着をきた主婦、仕事帰りのサラリーマン、クラブ活動を終えた生徒たち。季節は秋から冬にかけてというところか。
それらの人々は、必ずしも具体的に特定できる実在の人物というわけではない。しかし、そのありふれた夕暮れのありさまが目に浮かぶと、次の瞬間に昭和で言えば30年代から40年代あたりのさまざまな出来事が脈絡なく脳裏によみがえってくる。
小中学校の授業、友達との交歓、家庭における団欒。どの光景もほぼ例外なく穏やかな温かい雰囲気に包まれている。それは不思議なことではないのかもしれない。無意識に追憶に浸りたいと思うことは、それ自体が心の安らぎを求めているということなのだろうから。実際には、過去のどの時点においても当然、困難なことも悲しいことも存在したが。
皆様は、人々が気忙(きぜわ)しげに往来する師走のまちの情景にふと何かを思われるでしょうか。
来たる年がすべての皆様にとって幸多き一年でありますことを心からお祈り申し上げます。
調布市長 長友貴樹
(市報ちょうふ 平成30年12月20日号掲載)
第331号 育樹祭を終えて
先月18日、皇太子殿下並びに皇太子妃殿下のご臨席の下、第42回全国育樹祭式典が調布市「武蔵野の森総合スポーツプラザ」にて挙行された。
全国育樹祭は、全国植樹祭において天皇、皇后両陛下がお手植えされた樹木を皇族殿下がお手入れされる育樹活動のシンボル的行事と、皇族殿下によるお言葉や各種表彰等の式典行事の二つの行事を通じ、健全で活力ある森林を育て、次の世代に引き継ぐことの大切さを伝えることを目的とする祭典だ。昭和52年から毎年秋に行われ東京都では今回初の開催となる。
お手入れ行事は前日17日に江東区海の森公園にて行われ、式典行事会場として光栄なことにわが市に存在する施設が対象となったものだ。
式典は、全国から約5000人もの参加者を迎え盛大に開催され、小池知事や尾崎都議会議長などのご挨拶のあと、皇太子殿下のお言葉を頂いた。その他、木遣り唄や創作ダンス、竹製楽器演奏など育樹に関係した盛りだくさんのプログラムが展開され、非常になごやかな雰囲気のもとに心に残るイベントとなった。私も地元市長として閉会の辞を述べる役を担当し、良き思い出を心に刻むことができた。
また、両殿下と会話の機会を与えて頂き、「調布も深大寺など良いところがありますね」とのお言葉を賜り、非常に有難く受け止めさせて頂いた。
調布市長 長友貴樹
(市報ちょうふ 平成30年12月5日号掲載)
第330号 最善の「おもてなし」を
今月3日のラグビーテストマッチ日本対ニュージーランド戦は味の素スタジアムに4万3000人の大観衆を集めた。同競技場におけるラグビーの試合では過去最多の入場者数とのこと。
来年の11月にはラグビーW杯も決勝を迎え、日本国内はその熱気でさぞかし沸き立っていることだろう。
同大会において、9月20日の開幕戦および準々決勝2試合や3位決定戦を含めて、日本全国12会場で開催される全48試合中8試合が味の素スタジアム(註1)に割り当てられたことは嬉しい限りだ。ほとんどの試合において5万人近くの集客が予想されており、それだけでわがまちへの来訪者がのべ数十万人に及ぶ計算になる。それに翌20年のオリンピック・パラリンピック(註2)を加えると、どれだけの人数になるのだろうか。にわかには見当もつかない。
訪れる方には、時間の許す範囲で深大寺周辺散策など、市内で快適なときを過ごしていただくことを期待している。そのために、すでに各種サインなど分かりやすい掲示を増やす他、WiFi環境の整備やスマホで可能な多言語の情報入手手段の導入(註3)などを進めている。
ボランティアとして活躍される市民の方も多くおられると思うが、みんなで協力して最善の「おもてなし」を考えていきたい。
調布市長 長友貴樹
(註1)大会期間中の施設呼称は「東京スタジアム」となる。
(註2)調布市では自転車競技(ロードレース)、バドミントン、7人制ラグビー、サッカー、近代五種およびパラリンピックの車いすバスケットボールを開催。
(註3)Guidoor(ガイドア) 調布市の観光施設情報などを、多言語化(7言語に翻訳)したウェブサイトで提供するもの。観光施設などに当該ウェブサイトに案内するQRコード付きのパネルやステッカーを設置。
(市報ちょうふ 平成30年11月20日号掲載)
第329号 まちづくりを通じて
「今どきの若者は」というフレーズは、5000年前の古代エジプトの遺跡にも記されているそうだ。してみればこの言葉は、時を越えてどの時代にも存在する世代間の意識ギャップの象徴的表現か。
人間誰しも、自分の世代を基準として人生観や世の中のシステムの是非を語りたがるものだ。その際ともすれば、懐古的に以前の時代をより評価する傾向にあると言える。「あのこりゃ、よかった」などと。
それが、自己の世代を過大評価したいがための、可愛らしい錯覚を含む単なる過去の時代の美化に過ぎないことも当然あるが、時には社会のあり方を問い直す視点を秘めている場合もあると思う。
世知辛(せちがら)い世の中、との表現がある。何ゆえに暮らしにくい、生きにくい社会になってしまうのだろう。多くの人がそれを望まなくとも。
たとえば、文明の利器の発達を考えてみよう。確かにITの進歩により日常生活の利便性は急速に向上した。しかし、その反面、人間が機械に使われ拘束され、余暇のゆとり、憩いのひとときを減少させていることもまた一面の事実と言えよう。そして、その間に人同士の心の交流が以前より損なわれてはいないだろうか。
今後も皆様のご意見を伺う中で、まちづくりを通じた安らぎの創出について考えていきたい。
調布市長 長友貴樹
(市報ちょうふ 平成30年11月5日号掲載)
第328号 国際的な挑戦を
海外駐在の2、3年目ぐらいには気をつけろと言われる。何がというと、その頃には赴任地の実情が分かったような気になるということだ。「フランス人の国民性は」とか、「所詮アメリカは」などと言いたがるようになるということで、戒めを込めて言い伝えられている。
自分の経験に照らして、誠にその通りだと思う。私は通算9年間仕事で欧州に滞在したが、あとで思い起こして赤面、汗顔の至りと言わざるを得ないことは数多くある。異国の地で、自分が暮らす生活空間の狭小さに当初は思い至らず、5年、7年と経過するうちにさまざまなことを誤解していたことに徐々に気づき、一人小声でうめくのだ。
単に語学レベルの問題だけではない。やはり現地人と私的にも密に交流しなければ、また歴史を知らなければ、そして、欧米であれば何と言ってもキリスト教を学習しなければ、かの地を深く理解することは覚束ない。
2年続けて国際的なスポーツイベントが開催され、調布も世界中からの来訪者を迎えることとなる。青少年にはこの機会にまずは地球の広大さを感じ取ってもらいたい。
そしてその中から、将来確かな国際感覚を身につけた上で、ノーベル賞や宇宙開発などへのグローバルなチャレンジに胸弾ませる人材が育つことを心から期待している。
調布市長 長友貴樹
(市報ちょうふ 平成30年10月20日号掲載)
第327号 彼岸に思う
私の父親は、30年以上前に会社勤めを終えると郷里である九州での余生を選択し、東北育ちの母を連れて東京から移り住んだ。いつしか時は流れ、今から10年ほど前、すでに両親とも年齢は80代後半となっていた。
その時点ではまだ二人とも健康面に大きな困難を抱えていたわけではなかったが、その後の生活を考えると、やはり私が近い距離で見守れた方が良いと考えて、もう一度東京に戻って来ないかと言ってみたことがある。
頑固な父の反応は、予想通り「すべてのことを勘案した上での決定を変える気は毛頭ない」の一点張りだったが、時間をかけて説得しようと思っていた。
だが、それを私に断念させたのは母の一言だった。「もう無理だよ。今から東京に行っても、電車の駅で階段の上り下りもできない」。
二人ともそれぞれ90代半ばで他界したが、自分も足腰を気遣う年代に差し掛かった現在、時折あのときの母の言葉を思い出す。そして、ひょっとして母は、身体さえ許せば再び東京で暮らしたかったのではないだろうかなどと反芻(はんすう)してみる。確かに都会生活の方が高齢者にとっては厳しい面もあるには違いないが。
彼岸の時期になると、身内だけでなく、これまでの人生における様々な人との触れ合いを思い起こし、ときに感傷的になったりもする。
調布市長 長友貴樹
(市報ちょうふ 平成30年10月5日号掲載)
第326号 来年以降のためにも
8月26日、「調布よさこい2018」の当日、例年のように午後1時半から旧甲州街道でオープニングセレモニーが予定されていた。それに出席するために身支度を整えているとき連絡が入った。「今日のよさこいのセレモニーは中止にするそうです」。「えっ、それでどうなるの」「流し踊りは行いますが、開始時刻を遅らせて3時からにしてはどうかとのことです」。
それでも、同日は調布駅前広場で観光フェスティバルも開催されていたので正午過ぎに家を出て会場に向かった。外に出ると、さすがに尋常でない暑さの中ですぐに全身から猛烈に汗が噴き出してくる。気温はすでに35度を上回っており、コンクリートの照り返しが加わると40度程度になっていたかもしれない。
イベント開始を遅らせた判断はやむを得ないものであった。3時でもまだ温度は高かったが、太陽が南中を越えて旧道は建物の影に覆われおり、ようやくイベントが開始された。参加者および多く詰めかけて頂いた観衆の皆さまも十分健康管理に気をつけて頂き催しを終えることができたが、この異常気象の中で事業を実施することの難しさを改めて思い知らされた。
市内各地におけるイベントにおいて、同様のご苦労があったものと思われる。次年度以降の参考にするためにも、対応内容を追って教えて頂きたいと思う。
調布市長 長友貴樹
(市報ちょうふ 平成30年9月20日号掲載)
第325号 より良い交通環境を
多摩の26市で構成する東京都市長会は、各市の議会月を除く年8回全体会議を開催しているが、8月は例年、関東地方のいずれかの都市における、特定のテーマによる研修を兼ねたものとなっている。
今年のテーマは「都市の交通環境」で、栃木県宇都宮市で実施された。同市の面積は417平方キロメートルで、人口規模は北関東最大の約52万人。
吉田宇都宮市副市長の説明によると、もともと東京などに比べると未発達だった公共交通機関のネットワークが、近年は利用者減などにより衰退傾向にあり、移動手段としての自動車依存率がますます高まってきているそうだ。そこで、宇都宮市は市民が手軽に利用でき、かつ自動車によるCO2排出量が抑制されるLRT(註)の導入を計画している。
4年後の開業に向けてすでに事業は開始されているが、大事業ゆえにここまでの道のりは決して平坦ではなかったようだ。構想段階からこれまでに四半世紀を要したとの解説にご苦労がしのばれた。
多摩地域においても、今後の高齢化率の上昇見通しの中で、公共交通機関の利便性向上は極めて重要なテーマだ。LRTに特化するものではないが、さまざまな方策に対する自治体間の垣根を越えた議論が今後ますます求められることになるだろう。
調布市長 長友貴樹
(註)Light Rail Transitの略。次世代型路面電車システムなどと説明される。わが国でも近年、富山市などで採用されている。
(市報ちょうふ 平成30年9月5日号掲載)
第324号 あのかち割りの夏
夏の全国高校野球大会が100回目の開催を迎えた。一世紀に及ぶその歴史を振り返る時、多くの方が各時代におけるさまざまな思い出をお持ちのことだろう。
私が、こども時代長く住んだのは大阪府豊中市。甲子園球場が隣の兵庫県に位置することもあって、幼いころから春夏の高校野球が身近な存在に思えていた。女学生による大会歌「陽は舞いおどる甲子園」(註)の合唱を耳にして春の訪れを実感することが毎年の常であったように。
やがて中学生になると、どうしても、たとえ親の付き添いがなくとも甲子園で生の試合を見たいという欲求が強くなってきた。人生初めての単身の遠出だったかもしれない。梅田に出て、阪急から阪神電車に乗り換えて、西宮の甲子園まで1時間半ぐらいの道のりだっただろうか。現代なら小学生でもその程度の外出は普通なのかもしれないが、行動半径が極めて狭く、無論携帯電話なども存在しない時代では、多少の冒険だったと記憶する。
今年ほどではないにしても、やはり8月の日差しは肌に刺さるほど強烈だった。握りしめたなけなしの小遣いで口にした甲子園名物かち割り(ポリ袋に入った氷水)のうまさを忘れない。
半世紀以上前の光景を思い起こしつつ、あのような平凡なのどかさを与えてくれた平和の有難みを年を経るごとに一層強く感じている。
調布市長 長友貴樹
(註)春の大会歌は、1993(平成5)年から「今ありて」。
(市報ちょうふ 平成30年8月20日号掲載)
第323号 避難の意識を
西日本豪雨の甚大な被害には目を覆うばかりだ。私も物ごころついて以降、降雨による水害だけに限れば伊勢湾台風などを記憶に留めているが、今回ほど広範囲かつ長期的な惨状を目の当たりにするのは初めてだと思う。死者、行方不明者も約200人に達し(註1)、まさに未曽有の激甚災害と言えよう。
それにしても、被害の詳細が徐々に判明するにつれて、改めて災害への対応、特に一人ひとりがわが身を守るという最も基本的な行動の難しさを痛感する。ほとんどの方が事前に安全な避難所に退避できていれば、こんなにも多くの犠牲者を出さなくて済んだことは疑いない。そこに、実際に異常気象に見舞われなければ分からない困難さが潜んでいる。
市民の皆さま、緊急時には市役所も当然遅滞なく避難勧告・指示を発令しますが、どうか平穏な日々の生活の中で、避難に関する意識をお持ち下さい。特に私もその一人ですが、多摩川や崖線に近い地域にお住まいの方は、豪雨に見舞われる際の危険性を念頭に、今回のように数日前から異常気象が予想される場合は、安全な避難場所をあらかじめご確認下さい(註2)。雨足が強くなってからでは避難できません。それが夜間ではなおさらです。どうか平時の安全確認をよろしくお願いします。
調布市長 長友貴樹
(註1)7月10日現在
(註2)市では、多摩川の氾濫などによる浸水被害が発生した際の避難所や日頃からの準備、水害時の対応などを記載している調布市洪水ハザードマップを発行しています。自分や家族の命を守るため、あらかじめ確認してください。
(市報ちょうふ 平成30年7月20日号掲載)
第322号 真に豊かな人生のために
日本が経済大国であることは言うまでもない。名目GDP(国内総生産)は世界の200近い国の中でアメリカ、中国に次いで第3位なのだから。
それでは、日本人は豊かだろうか。それについてはさまざまな見解があることだろう。たとえばIMF統計によると、2017年の一人あたりGDPでは、日本は世界の25位であった。
一人あたりの所得が高いのはどのような国か。日本より上位のベスト20の中では、欧州諸国が13カ国を占める。そしてその大半は、北欧やベネルクスまたスイス、オーストリアといった中小国だ。大国の英独仏伊はそれより下位で、ほぼ日本と同水準になっている(註1)。
欧州中小国の人口は、大体500万人から1000万人程度。したがって、国際的発言力は決して大きいとは言えず世界規模では比較的地味な存在だ。しかし、生活水準は極めて高く、効率的な労働環境の下で、趣味や社会貢献に費やす時間も十分に確保することができる(註2)。それゆえに、生涯を通じて充実した人生を実感する人々の比率も日本より高いようだ。
それらの国にも、それなりに社会的な問題が存在するのだろうが、わが国で働き方が問題視される現在、他国の例も参考にしつつ、人生の真の豊かさを享受するための過去にとらわれない議論が必要ではないだろうか。
調布市長 長友貴樹
(註1)括弧内は国際順位。ルクセンブルク(1)、スイス(2)、ノルウエー(4)、デンマーク(10)、スウェーデン(12)、オランダ(13)、オーストリア(15)、フィンランド(17)、ベルギー(20)。イギリス(24)、ドイツ(19)、フランス(23)、イタリア(27)。ちなみに、米国(8)、ロシア(66)、中国(75)。
(註2)週あたりの労働時間は、欧米諸国はおしなべて35時間前後。日本も38時間で同水準にみえるが、他の先進国ではその労働時間に加える日本のような長時間残業はあまり例を見ない。また、日本の有給休暇消化率は世界最低レベル。
(市報ちょうふ 平成30年5月20日号掲載)
第321号 まちへの思い
今年は例年よりおしなべて開花が早いようだ。桜、つつじ、そして、なんじゃもんじゃに至るまで。歳時記どおりにことが運ぶことをよしとされる方もおられるだろうが、私などは年ごとの相違もまた一興と受け止めて楽しんでいる。
4月なのに、ときには初夏を通り越して盛夏を思わせるような日もある中で、調布駅近辺や深大寺周辺を始め、すでに市内各所は多くの人でにぎわいを見せている。
散策、買物、飲食、映画鑑賞と目的は様々だろうが、わが市を訪れる方が増えていることは疑いなく、誠に嬉しい限りだ。(註)ただ、それらの来訪者および市民の皆さんの変貌を遂げる調布市に対する思いは、果たしてどのようなものだろうか。
長年居住した国立市を終生こよなく愛した作家の故山口瞳氏は、ある時、近所に移り住まれたご婦人に道で出会った際に、今度の休暇はどちらかにお出掛けですかと問うたところ、「行くわけないじゃないですか。こんな素敵なところに越してきたんですから」と言われ、まさにわが意を得たりとの思いであった、と書いておられた。
縁あって人生の一定期間を過ごすまちを愛する心情が溢れ、忘れがたい言葉だ。
調布市長 長友貴樹
(註)調布駅の1日の乗降客数は、昨年以来6000人増えて現在12万5000人。
(市報ちょうふ 平成30年5月5日号掲載)
第320号 エッ、何を?
何年か前のことになる。初対面の若い人に、いきなり「お願いします」と言われて面食らった。エッ、何を頼みたいの?一瞬、間を置いたのち「よろしくお願いします」の意だと理解した。大きな違和感を覚えたが、その挨拶は徐々に日常生活に定着しつつあるようだ。
「よろしく」の意味を広辞苑で調べると、「よろしくお願いします」「よろしくお伝え下さい」などの略とある。そうなのだ。だからこそ、よろしくを省略したら意味が分からなくなってしまうではないか。「お伝え下さい」だけでも正確な日本語にはならない。
また、現代の若者は、「ほう」という言葉を多用する。どうも、この言葉を付加することによって丁寧な言い回しになると誤解しているようだ。たとえば、レストランなどで「こちらのほう、ご注文のほうの、カルビのほうになります」などという滑稽な表現が氾濫している。いつ頃からこんなおかしなことになったのだろう。辞書のどこにも、そのような解釈は見当たらないのだが。
言葉が時代とともに変化することはある程度理解する。「新(あらた)し」が「新(あたら)し」になったように。ただ、日本語の素晴らしさを大切にするためにも、安易な、また不用意な転用、誤用には敏感でありたいと思う。
調布市長 長友貴樹
(市報ちょうふ 平成30年4月20日号掲載)
第319号 旅立ちに臨んで
新たな旅立ちの季節を迎えると、毎年、折々のことを思い出し、さまざまな感慨にとらわれる。
小学生。60年ほど前のことで、断片的にしか覚えていないが、入学時はやっぱり緊張していたなと思う。担任の先生は年配の女性で、始終言われていたのが、「私語を慎め。背筋を伸ばせ。顎(あご)を引け」。そのことをもちろん1年生に分かる表現で指導されるわけだが、みんな無条件にそれに従っていた。それが当たり前とされる時代だから、とりわけ厳しいと思ったことはない。ただ、時の移り変わりとともに初等教育を取り巻く環境が変化することも当然だ。我々の頃より自由闊達(かったつ)な現代の児童も好ましく思っている。
社会人。就職したのは40年以上前。やはりそれなりに夢も希望も抱いていたし、それを叶えるために一定の学習が必要なことを自覚はしていた。振り返ってどうだろうか。一言で言えば、忸怩(じくじ)たるものを禁じ得ない。大きな後悔というほどのことでもないが、学習目標の達成度は結果的にあまり高くなかった。
新社会人の皆さん。よく遊び、よく学んで下さい。好奇心旺盛に硬軟さまざまな分野に関心を持つことを薦めます。そして、しっかりとした知識として自己に定着させるためには、優れた先輩に早めに指導を仰ぐのも賢明だと思いますよ。頑張って下さい。
調布市長 長友貴樹
(市報ちょうふ 平成30年4月5日号掲載)